「手術なしの性別変更」は
いまや世界的潮流だが日本は…

 2018年4月から性別適合手術に公的医療保険の適用が認められるようになった。これ自体は朗報だったが、ガイドラインで手術の前に必要と位置付けられたホルモン治療が保険適用外になるなど、制度設計のまずさが壁となっている。

 また日本では、戸籍の法的性別を変えるために性別適合手術が実質的に必須条件になっていることも、WHOなどの国際機関から批判されている。「心身にリスクを伴い、経済的負担も大きい手術を強制するのは、トランスジェンダーへの人権侵害である」というわけだ。実際、「手術なしの性別変更」はいまや世界的潮流である。

 性自認(ジェンダーや生まれつきの性別についての認識)をめぐる人々の価値観は、いま劇的に変化している。本書で初めて知ったのだが、「性同一性障害」という言葉も今後は使われなくなるかもしれない。WHOは2018年、29年ぶりに国際疾病分類を改定し、性同一性障害を「性別不合(Gender incogruence)」という名称に置き換えた。しかも、これまでは精神疾患に分類されていたものが、それよりも下位に分類された。つまり「性別不合」は、世界では「ごく当たり前のこと」になりつつあるのだ。

 本書から見えてくるのは、これらの変化に日本が追いついていない現状である。

 性転師は、まるでこうした日本と世界とのギャップを埋め合わせるために現れたような存在だ。私たちの意識が変わり、「性別不合」に誰も違和感をおぼえない社会になった暁には、やがて消えゆく運命にあるのかもしれない。時代の谷間に一代限りで咲いた花のような職業の貴重な記録である。

(HONZ 首藤淳哉)