「毎日捨てる」だけのチャレンジの劇的な効果
ジョシュアは所有物をじっくりと見つめ、なるべく捨てようと決めた。以後はそれと反比例するかのように、所有物が与えてくれる価値が大きくなっていった。いまでは、ふと思い立つと何かを手放して、それが自分の人生に本当に価値を与えていたか試すことがあるという。
たとえば1カ月間、携帯電話なしで暮らしたり、ネット断ちをしたりする。その後、そうした小さな贅沢をふたたび生活に復帰させると、以前より思慮深く意識的な使い方ができるようになる。身の回りのモノが、貴重な時間やエネルギーを奪っていることを自覚したうえで、それが生活をどう向上させてくれているのかがわかるようなった。
要するに、ミニマリスト・アプローチによって、人生で最も大切なもののためのスペースをつくったのだ。もちろん、それはモノを入れるスペースではない。
だれにでもできる大切なスペースをつくる方法として、ジョシュアは毎日1個ずつ30日間、モノを捨てつづける、というシンプルな方法を推奨している。きっと30個ではすまなくなるはずだ。いったんやりはじめたら、弾みがつくに決まっているのだから。
断捨離をもう少し確実にやりたいならば、競争の要素を加えるのもよいだろう。具体的には、友人か家族とモノを減らす競争をする。負けた側は勝った側に何かをプレゼントする(お金でも食事でもよいが、モノはやめておこう)。
両者とも開始初日には要らないモノを1個捨てる。2日目には2個、3日目には3個と、捨てるモノの数を増やしていく。最初は簡単だが、半月も経つと難しくなる。長く続けられたほうが勝ちだ。2人とも30日間続けられたならば、それぞれ500個近くのモノを減らせたことになる。両者文句なしの勝利と言えるだろう。
キープするか捨てるかを決めるとき、それが本当に必要かどうかをよく吟味しよう。なくてはならないものか? 経験の質を高めてくれるものか? あるいは、ただ気を紛らわせたり、心の隙間を埋めるだけの、おしゃぶりのようなものか?
ジョシュアは「モノ」を最終目標とすることに警鐘を鳴らしている。モノを買うお金のために働いているのなら、長い目で見て心が満たされることはない。モノをいっぱいため込んだあげく、それらは自分を幸せにしてくれないことに気づくことになる。
「幸福の追求」は人生の正しい目標か?
だが、待ってほしい、そもそも「幸福」は正しい最終目標なのだろうか?
正しい目標ではない、とジョシュアは考えている。いまの社会では、幸福を追求しようとすると間違ったものを追いかけることになるからだ。永続する幸福や満足と「束の間の快楽」を取り違えてしまうのだ。
いまのジョシュアは、長期的な価値にふさわしい行動(仕事、貢献、つきあう相手など)を選択し、意義のある人生を送ることこそが重要だと考えている。それができれば、最終目標のように思えた幸福も、じつは副産物にすぎないことがわかるだろう。
(本原稿は、『シリコンバレー式超ライフハック』〈デイヴ・アスプリー著、栗原百代訳〉からの抜粋です)
シリコンバレーのテクノロジー起業家、バイオハッカー。ブレットプルーフ360創業者兼CEO。シリコンバレー保健研究所会長。バイオハックの父と呼ばれる。ウォートン・スクールでMBAを取得後、シリコンバレーで成功するも肥満と体調不良に。その体験から、ITスキルを駆使して自らの体をバイオハック、世界トップクラスの脳科学者、生化学者、栄養士等の膨大な数の研究を総合し、自己実験に100万ドルを投じて心身の能力を向上させる方法を研究。自らもIQを上げ、50キロ痩せたその画期的なアプローチは、ニューヨーク・タイムズ、フォーブス、CNN、LAタイムズ等、数多くのメディアで話題に。ポッドキャスト「ブレットプルーフ・ラジオ」はウェブ界の最高権威、ウェビー賞を受賞するなど絶大な支持を誇る。著書に『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』『HEAD STRONGシリコンバレー式頭がよくなる全技術』(ともに栗原百代訳、ダイヤモンド社)など。
栗原百代(くりはら・ももよ)
1962年東京生まれ。翻訳家。早稲田大学第一文学部哲学科卒業。東京学芸大学教育学修士課程修了。訳書に『相性のよしあしはフェロモンが決める』(草思社)、『レイチェル・ゾー・LA・スタイル・AtoZ』(メディアパル)、『啓蒙思想2.0』『反逆の神話』『資本主義が嫌いな人のための経済学』(NTT出版)、『しまった!』(講談社)など。