社会の役に立たない企業に存在意義はない

朝倉 最近の上場株式への投資について考えると、ESG投資とAI投資が大きな流れとしてあるように思えます。それぞれについて奥野さんがどういう考えを持っているのかを伺いたいと思います。まずESG投資の考え方そのものは素晴らしいと思います。企業が長期的な成長を続けていくためにはE(Environment:環境)、S(Social:社会)、G(Governance:ガバナンス)の3つが大事だということは確かに納得できます。ただ、たとえばテスラがESG銘柄として注目され、株価も業績からはなかなか理解しにくい水準まで値上がりしているのを見ると、今のESG投資の風潮が本当に良いのか、という気持ちにもなります。どうしてもマーケットを歪めているんじゃないかという印象を受けてしまいます。

奥野 そもそも社会の役に立たない企業に存在意義はありません。つまり長期投資家にとってESGは、わざわざ口に出して言うまでもない、当たり前の前提条件といっても良いでしょう。ただ、企業活動はボランティアではありません。企業文化の観点からEやSを見るわけですが、大事なことはきちんと利益を生み続けられるかどうかです。いくら地球環境や社会に配慮した経営を行っていたとしても、利益を生まない企業は投資するに値しません。その企業にしか出来ないやり方があるから利益を生み続けられるのです。つまり参入障壁こそが、何にもまして最優先です。最近、ESGファクターを入れたインデックスなどがMSCIやFTSEで開発されていますが、これについては単なる「テーマ投資」と見ています。インデックスに組み入れるにあたって、あらかじめ決められた項目にそってスコアリングし、一定の点数を超えた企業を組入対象にして終わりです。私たちは長期投資をするにあたって、企業の事業継続性を何よりも重視し、それを評価しますが、この手のインデックスには全くこういう評価軸が入っていません。そういう意味では歪んでいます。ちなみにテスラは「電気自動車を製造しているから環境にやさしい、だからESGだ」というロジックですが、そもそも電気をつくる時に大量の石油を使いますし、電気は貯めておくことが出来なければ、送電する際には大量の送電ロスが生じます。したがって電気自動車が環境にやさしいとは一概に言えないし、テスラのガバナンスについても議論のあるところですよね。

アクティブ運用はAI投資に勝てるのか

朝倉 ヘッジファンドだと、最近はAIを用いたアルゴトレードがより影響力を増している印象を受けますが、人間が運用するアクティブファンドは、AI投資に勝てるのでしょうか。

奥野 中短期投資に関してはAIに駆逐されるでしょう。そもそも中短期投資はゼロサムの世界なので、人間のセンスで売買するよりもAIのロジックで売買する方が、再現性があるように聞こえるし、説明力があります。でも長期投資は別です。AIで判断しようにも長期投資に必要なデータが揃いません。企業の事業継続性に関するデータをこれから収集するといっても、そもそもそんなデータは存在しませんし、それは人間がどう評価するかに尽きることですから、AIではやりようがないと思います。長期投資はAIごときに負けませんし、資本主義は人類にとって本当に有益な企業を残すための、人間にしか出来ない高尚な作業ですから、それを機械ごときに任せていいものなのか、というのが私の本音です。

朝倉 バフェットは「どんな愚かな人が経営者になっても存続できる企業に投資しなさい」と言っています。まさに構造的に勝てる企業を選べということで、奥野さんも同じお考えだと思いますが、誰が経営者になっても存続できる企業を選ぶのであれば、データ化されている情報だけでも選べるということはないのでしょうか。

奥野 経営者はAさんでもBさんでもどちらでも良いのですが、やはり数字を見ただけでは分からないことってあります。常に参入障壁を高くするために知恵を出し合い、必要な投資を行うことが会社のDNAに刷り込まれているかどうかの判断は、AIには出来ないと思います。

朝倉 企業のDNAを見て判断するのは、確かにAIでは難しいのかも知れませんね。「構造的に勝てる企業を選ぶ」と聞くとやや無機質な感じもしますが、思いのほか、ちょっとロマンチックな印象を受けました。

奥野 でも単にロマンチックなだけではダメで、大事なのは利益という数字に落とし込めていることです。よく投資先を選ぶ時、「自分の好きな経営者を応援するために投資する」、「自分が買いたいと思っている商品を造っている会社に投資する」などと言われますが、それだけでは人のお金を預かることは出来ません。何よりも大事なのは参入障壁です。その参入障壁も時を経ると段々、色褪せます。だからこそ、常に参入障壁を高く築き上げようという不断の努力が出来るDNAを持った組織かどうかが問われるのだと思います。

参考記事
コロナ危機でも、人に会うことが付加価値を生み出す