――対応力というのは、その企業の担当者に依存する能力という意味でしょうか。

太田氏 生産拠点や部品調達網を2〜3カ所に依存する「二極化」「三極化」の体制から、今はそれ以上の「多極化」を実現している企業が多いので、そうした企業はしっかりとシナリオ管理をすることが重要です。実際、コロナ禍以降、製造業各社ではビジネスのシナリオ管理やシミュレーションをするソフトウエア「アナプラン」などの利用が増えているようです。

 現状を分析して、商品や地域ごとにもうかるかもうからないか、さまざまな切り口で分析することが重要です。それをしかもリモート環境で行い、判断する。これはなかなかレベルが高い業務です。

コスト削減として進めるべきなのが
デジタルトランスフォーメーション

――もともと製造業には、コロナ禍以前から米中貿易戦争があり、サプライチェーン寸断のリスクを抱えていました。

太田氏 確かに地政学的なリスクはあります。それはむしろ高まっているのではないでしょうか。米中貿易戦争もそうですが、コロナ禍によって自国の利益を優先する動きが出ていますよね。そうなると、ハイテク部品などで製品に供給不足が生じたとき、自国メーカーに優先的に供給するようなことが起こると思います。

 対策としては日本で部品を調達して製造し、輸出するという、国内回帰が一つ。もう一つが、ブロック経済のように、地域ごとにサプライチェーンをつくり上げていくことです。製造業の幹部の中には、こういった選択肢が頭に浮かんでいるのではないでしょうか。

 しかし、ブロック経済化は製造業にとって良いことではありません。コストが上がりますから。ですので、サプライチェーンの再構築を急ぎつつ、まずは製造工程などのオペレーションの部分でどれだけコストを下げられるかに、頭を悩ませていますね。

 コスト削減は、製造業であればどの企業も急ぐべきでしょう。自動車なら、コロナ禍以前の販売台数に戻るまで2~3年かかるといわれています。販売台数が減れば、車を1台売るコストが上がってきますから、どれだけコストダウンできるかという議論をしている企業が多いですね。

――オペレーションのところでのコスト削減はどういう手法があるのでしょうか。

河野氏
河野真一郎氏

河野氏 ここで出てくるのが製造工程のデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル化による変革)です。多くの製造業はDXを本格的に進めなければなりません。コロナ禍でその重要性が認識されるきっかけになったと思います。

 DXはそんなに新しい言葉でも考え方でもありません。スウェーデンのウメオ大学教授、エリック・ストルターマン氏が2004年に提唱した概念です。ITの力を使って、人々の生活をあらゆる面で良い方向へ変えるということです。

 DXには、2つの大きな意味があります。製造業でいえば、一つは「リアルとバーチャルが融合すること」を指し、例えば設計段階で3Dキャド(CAD、コンピューター利用設計)によるデジタルデータなどを使うことで、今や人間では考えられない設計が実現できています。もう一つは「コネクテッド」、つまり製造されたあらゆるものにセンサーが活用され、全てがインターネットにつながること、つまりIoTが進むことです。

 しかし、日本ではなかなか進みませんでした。欧米の完成車メーカーは、設計段階から全てデジタルで進められます。欧米の完成車メーカーのテレビコマーシャルは、ほとんどが設計段階から使われてきたCGを活用しています。それをマーケティングにも活用しているのです。実車を使っているのは日本くらいでしょうね。

――なぜ日本でDXが進まなかったのでしょうか。

河野氏 私の見解ですが、日本は設計の上流工程で起こった変更を下流工程で対応する能力、いわゆるすり合わせ能力が非常に高かったからです。

 この能力によって日本の製造業の競争力は長らく保たれていました。しかし、それがうまく機能していたのはデジタル化の波が押し寄せる前までです。欧米やアジアのメーカーがデジタル化に対応してものづくりを始めると、この強みが相対的に落ちてしまいました。

 生産体制のグローバル化が進み、コスト削減が必要になってきている中では、すり合わせ能力だけでは対応できません。

 先ほど、太田からサプライチェーンを再考することについて話がありましたが、国内回帰するにしても、ブロック経済のような考えをするにしても、製造工程がDX化していなくては、変革するのはなかなか難しいでしょう。

 それに、これからはソーシャルディスタンスへの対応が迫られます。工場でもそれは同じで、人と人との距離をとるためにはできるだけ自動化、無人化しなければなりません。工場の動線の分析をして、工場全体で生産性を高める施策が必要です。今後、生き残る製造業はこうした施策ができる企業だと思います。