“正解”を現場に押し付けるのが、恐るべき「愚行」である理由

 そもそも、現場というものは、「あっちを変えれば、こっちがおかしくなる」「こっちを変えれば、あっちがおかしくなる」といったことが錯綜する複雑怪奇な「生き物」です。その現場の実情・実態を反映しない「正解=机上の空論」を押し付ければ、現場はいとも簡単に壊れてしまいます。あるいは、壊れそうな現場をなんとか持ち堪えるために、現場の人々は、それまで以上の苦難を強いられることになるでしょう。

 さらには、参謀がつくった「正解=机上の空論」のお陰でよくなったのではなく、現場の頑張りでよくなったときでも参謀の手柄とされ、よくならなければ、逆に「言ったとおりにしないからだ」と現場が責められるということが起きやすいものです。そして、「風通しの悪い組織」と言うだけでは済まなくなっていきます。

 こうなれば、状況は深刻です。

 一方的に現場を苦しめる執行部に対して、現場には、拭い難い不信感が生まれるでしょう。あるいは、無理に無理を重ねることで、現場に軋轢が増え、組織のインフラである人間関係が壊れてしまうこともありえます。まさに、組織が根底から崩れる結果を招くわけです。

 これは、決して大袈裟な話ではありません。

 ここでは製造会社の工場部門のケースを一例に出しましたが、このようなエピソードは、多くの組織の多くの部門で日常的に起こっていると、私は考えています。

 あるいは、こうした問題が顕在化していない場合であっても、水面下では同じような現象が起きており、組織全体のモラールが下がり、効率性と生産性を大きく損ねているところも多いのではないかと考えています。

 そして、何らかのきっかけで、問題が顕在化したときに、慌てて執行部が「調査チーム」を立ち上げて現場に派遣しても、現場は本心・事実を明かすことはありません。執行部が求めているであろう“もっともらしい理由”や、レポート受けする“わかりやすい表面的な問題点”を提供するだけでしょう。

 これは、現場の責任ではありません。数々の「正解=机上の空論」を強制し、現場をそのように“教育”してきた執行部の責任です。「調査チーム」だって執行部と同類項ですから、本来の機能を発揮するはずがない。その結果、経営に起因するルートコーズ(根本原因)に迫ることができず、問題解決がきわめて困難になるのです。

 もちろん、こうした現象が起きる原因は、参謀のあり方だけにあるわけではありません。社長をはじめとする経営陣が、現場の“どうしようもない現実”を知ろうともせず、安直な「正解」を求めていることこそが、真因であるケースが大半なのかもしれません。

 しかし、参謀のあり方も重要なファクターであることは疑いありません。いや、経営陣が現場感覚を失っているとすれば、そこを補完することこそが、参謀の果たすべき役割なはずなのです。

 そのためには、現場から自分はどう見えているかを客観的に認識することが、きわめて重要です。現場の目には、参謀の背後に権力者の姿が見えていることを認識していれば、現場から「本当のこと」を聞き出すには、細心の注意が必要であることがわかるはずです。そして、現実には全く機能しない「正解」を現場に押し付けるような「愚行」を避けることができるはずなのです。

 さらに言えば、組織には必ず「権力」が存在し、その「権力」が生み出す”カラクリ”に意識的であるかどうかが、組織の盛衰を決めるということ。そして、そのためには、「権力」の近くにいる経営陣と参謀が、自分と権力の距離を「客観視」する思考習慣を持つ必要があるのです。逆に言えば、経営陣と参謀がその思考習慣をもたないことが、組織を壊す”魔物”の正体なのです。