とにかく笑顔

 最後の武器は、笑顔です。なんだ、笑顔か、と拍子抜けされた方がいらっしゃるかもしれませんが、理由があります。

 私たちの英会話スクールにL君というドイツ人講師がいます。8頭身か9頭身くらいある、いわゆる長身のイケメンです。そんな惚れ惚れするようなシルエットの彼は、日本に来てから何度も「あなた、なんて小顔なの!」「小顔、うらやましい」と褒められたそうです。

 ただ、L君からすると、「微妙」とのことでした。なぜなら、彼の育った地域では、小顔であることは何の褒め言葉でもないからだそうです。むしろ、「お前、顔小さいな」とからかいの対象になったり、小顔は脳が小さいと連想される国すらあるそうです。

 L君も最初の頃は戸惑い、今では半分笑いながら「また、言われた」と受け流しています。異文化のギャップにすぎないとわかったからですが、もう1つ、みんな一様に笑顔で言っており、悪意がないとわかるからです。

 ちなみに、日本人が憧れる「高い鼻」も、ギリシャなどでは称賛されず、整形手術をして低くする人すらいるとか。このように価値観の違いはそこかしこにあり、こちらがよかれと思って発言していることも、相手の価値観からしたら決して褒めていないこともあるのです。

 考えるべきは、異文化コミュニケーションにおいては、どれだけ頑張っても情報伝達のミスは起こりえるということです。それは、価値観の違いかもしれませんし、単に言語的に不自由なことが理由かもしれません。いずれにせよ、すれ違いはいつでも起こりえるので、それを織り込み済みで対策をしておいた方が賢明です。

 それが、「笑顔」なのです。笑顔が誤解を招くリスクを回避します。「あなたには好意しか抱いていません」という満面の笑みがあれば、たとえミスが起こっても「全然他意はありません。単なるミスです。ごめんなさい!あなたには常に敬愛の念を抱いていますよ!」という証しになるのです。

 ちなみに、L君は先日、婚約者を連れて母国ドイツに一時帰国しました。相手はトリニダード・トバゴ人のAさんという、異文化カップルです。ドイツに滞在中、Aさんは、何度もL君がドイツの人々とケンカになりそうで驚いたとのことでした。

 いつも笑顔のL君が、なぜかムスッとしている。L君によると「ドイツ人は普段あまり笑顔を出さない。面白くもないのに笑わない」ということ。なので、Aさんからするとお互い怒っているように見えたとのことでした。

 ドイツ国内では笑わないL君も、日本では仲間に笑顔をたくさん見せています。「グローバルの文脈」に対応するときは、自国のやり方から脱出し、違う技を使う。その最たるものが笑顔というポジティブ・パワーなのです。

 満面の笑みで待ち受けている相手に、人は心を開きます。だから、聞くときの姿勢から、大きな笑顔で接したいのです。相手はどんどん気持ちよく話し始めるでしょう。グローバル・モードの最強の武器が笑顔といっても過言ではありません。

笑顔こそが異文化コミュニケーション最強の武器
児玉教仁(こだま・のりひと)
イングリッシュブートキャンプ株式会社代表
ハーバード経営大学院 ジャパン・アドバイザリー・ボードメンバー
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー アドバイザー
静岡県出身。静岡県立清水東高等学校を卒業後、1年半アルバイトで学費を稼ぎ渡米。ウィリアム・アンド・メアリー大学を経済学・政治学のダブル専攻で卒業後は、シアトルでヘリコプターの免許を取得後帰国。1997年4月三菱商事株式会社入社。鉄鋼輸出部門に配属され様々な海外プロジェクトに携わる。2004年より、ハーバード経営大学院に留学。2006年同校よりMBA(経営学修士)を取得。三菱商事に帰任後は、米国に拠点を持つ子会社を立ち上げ代表取締役として経営。2011年同社を退社後、グローバル・リーダーの育成を担うグローバル・アストロラインズ社を立ち上げる。2012年よりイングリッシュブートキャンプを主宰。イングリッシュブートキャンプ社代表も務めるかたわら、大手総合商社各社をはじめ、全日本空輸、ダイキン等、様々な国際企業でグローバル・リーダー育成の講師としてプログラムの開発・自らも登壇している。