リモートワーク環境下で問題となるコミュニケーションの不全
――リモートワークが増えるなかで、リーダーが特に悩んでいることは何でしょうか?
リフレッシュコミュニケーションズ代表
コミュニケーションデザイナー・人材育成コンサルタント・リーダー向けコーチ
成城大学卒業後、大手旅行会社を経て学校法人へ転職。広報リーダーになるも、「怒ってばかりの不器用なコミュニケーション」で職場を去らなければならない羽目になり、外資系専門商社に転職。その後、ポイントを絞ってわかりやすく伝える方法を駆使し、営業成績を劇的に改善。社外でもコンサルタントとして活動し、2011年1月に独立。現在は経営者・中間管理職向けに、人材育成、チームビルディング、売上改善の方法を中心としたコンサルティング活動を行い、累計受講者数は3万人を超える。
吉田 リーダーから部下への伝達がうまくいかないという悩みをよく聞きます。顔を合わせてのコミュニケーションができず、メール、電話、テレビ会議だけのコミュニケーションとなると、どうしても効率が悪くなってしまいますから。
伊庭 たとえば対面だったらさりげなくできる部下への注意も、リモートワークの場合は難しいですよね。「メールで下手に書くと誤解されるかもしれないし、わざわざテレビ会議で言うほどのことでもないし……」と諦めてしまう。遠慮して言いたいことが言えないという状況はあるようです。オンラインだけのコミュニケーションでは、指示をしても部下の反応が見えにくいですから、リーダーにはコーチング技術が必要になります。
吉田 特にメールやチャットでの指示は、相手がきちんと理解するまで何度か往復しなければなりませんから、根気が必要です。
伊庭 私は最近、若い人に動画編集を依頼したしたんですが、なかなか自分の指示が伝わらずに苦労しました。「二重チェックして」と言っても同じところでミスをするので、さすがにおかしいと思ってオンラインでミーティングの時間を取り、原因を追及しました。
といってもミスを責めるのではなく、「どうしてこの問題が起こったの?」などとやさしく聞いていきます。すると本人から、「これからは作業の順番を変えます」という提案が出て、「そうね! それもいいけど、根本にある問題は何だっけ?」「二重チェック……ですね」「その通り。じゃあどうすればいい?」「これからは時間に余裕を持って二重チェックします」「素晴らしい!」……お笑い芸人の「ぺこぱ」並みに、相手を否定しないところがポイントです(笑)。
吉田 伊庭さんの本でいえば、第4章の『中堅には“コーチング”で「考える力」を伸ばす』といったところが参考になりますね。文句を言いたくなってもぐっと我慢して、問いかけて気づかせるというのは、リーダーにとって必要なテクニックです。
その反対に質問の仕方が上手ではないリーダーは、感情を抑えられないから、「なんで間違えるの?」「どうしたらできるの?」「何度言ったらわかるの?」と説教くさくなってしまう。そうすると相手も、説教から逃げたいという気持ちが出てくる。その結果、正確な情報が伝わらなくなります。
相手の表情が見えないなかで発せられる言葉は、余計にきつく感じてしまいます。叱られている方も追い込まれてしまい、解決策が見出せなくなります。そうならないためにも、伊庭さんのおっしゃるような否定せずに聞き出すコミュニケーションが重要です。
伊庭 きちんと伝えて、気づかせてあげる作業は、リーダーが時間をかけて丁寧にやらなければなりません。まさに吉田さんの本のタイトルにある“部下に届く言葉がけ”、この技術です。
吉田 こちらが伝えたつもりでも、相手に伝わっていないことはあります。学びには「知っている」「わかる」「できる」というステップがあり、オフィスで顔を合わせてコミュニケーションをとっていれば、部下がどの段階にいるのかがよくわかります。しかし、リモートでは「できる」のところまではなかなか見えません。リーダーにとっては、適切なコミュニケーションをとるのが本当に難しい状況だと思います。