交渉は「会社と会社」
ではなく「人と人」
――素人の質問で恐縮なのですが、アーティストというのは専属のプロモーターがいるわけではなく、出演に関しては毎回、各プロモーターがアーティスト側と直接交渉するのでしょうか?
Photo by T.H.
そうですね。例えばレコード会社とアーティストの間には専属契約というものがあります。5年契約、10年契約といったように期間を定め、期間中はそのレコード会社専属のアーティストとなります。でもプロモーターとアーティストの間には専属契約というものがありません。プロモーターは毎回毎回、アーティスト側と交渉します。
海外の場合は「コンサートエージェント」という組織があって、アーティストは皆、レコード会社とは別にエージェントにも所属しています。私たちはそのエージェントと毎回交渉をして、アーティストをブッキングするのです。
そのときに最も重要なのが、エージェントとの信頼関係です。もちろんギャラの大小や、きちんとギャラを払えるかといった点も重視されますが。
それに加えて、先ほどお伝えしたような、「この会社はフェスを持っている」「この会社と組めばアーティストは大きくなれる」といったプロモーター自身の魅力もやはり重要です。「フェスを持っている」というのは、やはりそのプロモーターの魅力になるんですね。2000年以降、SMASHやクリエイティブマンが洋楽アーティストのライブのシェアを広げていったのは、まさしくフジロックやサマソニといったフェスを持っていたからだといえます。
――そのエージェントとプロモーターの間にも専属契約はないのでしょうか?
ないです。でも当然、お互いの「好き嫌い」はあります。私たちのことをとても気に入ってくれているエージェントもいれば、SMASHさんが好きでSMASHさんの依頼しか受けないところもあります。でもそれは契約ではないんですよ。あくまで人と人との信頼関係です。
例えば、エミネムやファットボーイ・スリムなどが所属する「ウィリアム・モリス・エンデヴァー・エンターテイメント」という会社には、何十人ものエージェントがいますが、全員が私たちと仲が良いかというと、そうとも限りません。「俺はこいつとは仲が良いけれど、こいつとは仲が悪い」ということはもちろんあります。ですので、「会社と会社」というよりも本当に「人と人」ですね。
J-POPやアイドルユニットを
起用した理由
――サマソニは2010年ごろからJ-POPやアイドルユニットを積極的にラインアップに加えています。どのような背景があるのでしょうか?
サマソニは当初、洋楽ロック好きの人に向けて開始した音楽フェスでした。当然、初期は洋楽のアーティスト中心ですし、日本のアーティストも洋楽に影響を受けて育ったアーティストを中心に声を掛けていました。
でも音楽フェスというのは、開催を重ねるたびに大きくなっていきます。それに伴いステージ数も増え、そうなると、ひとつの音楽ジャンルにとどまるということはまず不可能です。
私はロック好きですが、ロックだけにこだわっているわけではありません。ポップスもヒップホップも好きです。洋楽全般が好きだったので、いつかそうした幅広いジャンルのアーティストが集う音楽フェスにしたいと当初から思っていました。
実際、サマソニの1年目にはジェームズ・ブラウンに出演していただきましたし、恐らく日本のロックフェスでは初めて、ブラック・アイド・ピーズというヒップホップグループにトリを務めてもらっています。海外の音楽フェスよりも早く、ビヨンセをヘッドライナーにしたのも、ポップスのパワーを理解して大切にしてきたからです。
ビヨンセのほかにも、テイラー・スウィフトやリアーナ、レディー・ガガなど、ポップスにおいてビッグになった女性アーティストの多くがこれまでに出演していますし、最近ではデュア・リパやビリー・アイリッシュといったプラスジェンダー的なアーティストも多く出演しています。
より多くの方に音楽の楽しさを知ってもらいたい。そのためには規模やオーディエンスの音楽嗜好に合わせて時代を先取りし、「ロックフェス」の概念を変えていく必要があります。
――音楽フェス参加者の高齢化が話題になることが増えています。4大フェスが出そろった2000年に20代であった世代は現在40代となり、このまま音楽フェスは特定の世代の文化として完結するのではという声もありますが、サマソニの客層はいかがでしょうか?
先ほどの話にもつながりますが、サマソニはさまざまなジャンルや新世代のアーティストも積極的にヘッドライナーにしているので、若いオーディエンスも付いてきていると思います。昨今ではEDM(Electronic Dance Music)系のアーティストもヘッドライナーを務めています。
私たちはそれこそ、開催中毎日オーディエンスのタイプが入れ替わってもいいという気持ちでブッキングしています。「この日は若い人が多いね」「この日はロックな人が多いね」というように、日によってオーディエンスのタイプがまったく違うケースがあるのも、今のサマソニの面白いところですね。
――スタッフの若返りがないと、新たなアーティストを知るための感度が衰えていくと思うのですが、出演者のラインアップはどのように決めていくのでしょうか?
クリエイティブマンをつくって20年くらいは、洋楽アーティストのブッキングは全て私が行っていました。今はそこまでは手が回りませんが、サマソニだけは今でも私が行っています。
私たちは年間、数多くの洋楽ライブを主催しており、ロック、ポップス、パンク、メタル、ヒップホップ、それぞれを担当するスタッフがいます。彼らが常に最新情報を仕入れながらライブをブッキングしています。サマソニになると、その中から私がチョイスしてラインアップが決まっていくケースが多いですね、今は。
私ももう55歳なので、本来は新しい音楽への感度は落ちていくとは思うのですが、この仕事をしていると、落ちるペースがすごく遅いんです。やはり絶えず新しい音楽を聴くことが身に付いているからでしょうね。ですので、新世代のアーティストへの感度という意味では、まだまだ付いていけるのかもしれません。







