口腔ケアは裏切らない――正しいケア習慣で歯周病は防げる

――やはり歯周病が口臭の最大の原因なのですね。歯周病は病名こそCMなどで耳にしますが、その実態やケア方法はあまり知られていませんよね。ここからは歯周病について、両先生のお考えを聞かせてください。

森下:稲葉先生は、患者さんに、どんなふうに歯周病治療を勧めているのですか?

稲葉:口臭に気づいていない人は、当然、歯周病にも気づいていません。だから、歯周ポケットの深さを計る「歯周病検査」を勧めて、数値で患者さんの納得を得ながら歯周病治療を進めていきます。でも、問題は、虫歯と違って歯周病は治療の成果が見えづらいことです。歯周病による口臭の度合いを客観的な数値で示せないので、患者さん自身もわかりにくいから途中で治療をやめてしまうこともある。

森下:虫歯と違って、歯周病は痛むことがほとんどないですから……。口臭もなかなか周囲の人から指摘されづらいから、歯がグラグラになって初めて、ことの重大さに気づくという人もまだまだ多いですね。

稲葉:歯がグラついてきたときというのは、がんの進行度合いでいったらステージ4くらい。つまり、「末期」です。ほとんど手のほどこしようがなく、抜歯になることが多いのです。だから、そうなる前になんとかしたいというのが歯科医師の思いなんですけどね。

森下:そう考えると、歯周病対策は予防に尽きると思います。

稲葉:同感です。がんなどの全身疾患は、いくら健康に気をつけていても罹患してしまうことがあります。タバコなんて吸ったことないのに肺がんになってしまったとか、ありますよね。でも、歯に関しては、それはないと思います。毎日の口腔ケアは裏切りません。

森下:そう思います。毎日のプラーク(歯垢)コントロールで歯周病はかなり予防できるはずです。

稲葉:歯科医としてはホームケア(日々の歯磨きなど自身でケアをすること)だけでなく、口臭外来にも来てほしいですね。口臭ってすごくセンシティブなことなので、口臭外来を受診するのも勇気がいると思うんです。恥ずかしい気持ちも強いはずです。でも、医療機関での薄毛治療がすっかり市民権を得て、薄毛に対する羞恥心も薄れてきているように思うんです。口臭も、恥ずかしさよりも「治さなくちゃ」と思ってもらえるよう意識が高まっていくといいなと思うんです。

森下:そのとおりだと思います。そのためには、歯科側からも何かアプローチが必要でしょうね。新型コロナの感染症対策でマスクをつけるようになって、ご自分の口臭に気づいた人も多いと思いますから、勇気を出して受診してほしいですね。