安全保障への懸念から米マイクロソフトへの米国事業売却交渉が始まった動画SNS(ソーシャルメディア)のTikTok。若年層に人気のエンタメアプリにどのようなリスクがあるのか?なぜ売却交渉の相手はマイクロソフトなのか?今後どうなるのか?急展開する事態のポイントを総まとめする。(ダイヤモンド特任アナリスト 高口康太)
米国のTikTok問題は
1年前から始まっていた
「この数カ月というもの、わが社は多くの試練に直面してきた。みなもこの数日、さまざまなうわさと臆測を目にしただろう。現在、TikTokの米国事業は、CFIUS(対米外国投資委員会)によって強制売却を指示される、または禁止の行政命令を受ける可能性がある」
上記は動画アプリ「TikTok」を運営する中国企業バイトダンス(字節跳動)の創業者、張一鳴氏が8月3日に全社員に送ったメールの一節だ。トランプ米大統領によるTikTok禁止発言、さらにその後のマイクロソフトへの売却交渉が報道されている中、張氏はこのメールで実際にTikTokの米国事業の売却交渉が進んでいることを認めている。特に注目されるのは次の下りだ。
「CFIUSによる2017年末のミュージカリー買収案件に対する調査に、私たちは1年近くにわたり積極的な協力を続けてきた。われわれが民間企業であると強調し、懸念を打ち消すために多くの技術的方策を導入する用意があるとアピールしてきたが、CFIUSはTikTok米国事業の売却は不可避との態度を崩さなかった。この決定には同意できない。ユーザーのデータセキュリティー、プラットホームの中立性と透明性を守るよう、一貫して努力してきたのだから。
だが、現在の状況を考えれば、CFIUSの決定と米大統領の行政命令に向き合わざるを得ない。ただし、それは他の可能性の模索を妨げるものではない。私たちは今、あるテック企業との提携計画について初期的な議論始めている。その計画がまとまれば、TikTokは米国ユーザーへのサービスを継続できるだろう」
ミュージカリーとは14年にリリースされた動画SNS(ソーシャルメディア)だ。中国企業によって開発されたが、後に米国に本拠を移した。17年11月にバイトダンスに買収され、翌年にTikTokとアプリが統合される。TikTokが北米市場で急成長できたのはミュージカリーのユーザーを獲得したためだ。ミュージカリーの創業者である朱駿は現在、バイトダンスの副総裁を務める。
TikTok飛躍の契機となった買収こそが、皮肉なことに今の危機の導火線となった。CFIUSの調査は外国から米国への投資に国家安全保障上の問題がないかを審査するもの。TikTok問題は6月末から急速に表面化した。一部では、今年6月にトランプ大統領がオクラホマ州で開催した政治集会で空席が目立った件で、反対派がTikTokの動画を通じて参加登録だけして欠席するよう呼びかけたことが、トランプ大統領の怒りを招いたともうわさされていた。だが実際のところは、1年近く前から調査が続いていたのだ。