秋山進あきやま・すすむ/プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社代表取締役

秋山 まさに交渉術、交渉能力が必要とされる場面ですね。外交官のみなさんは交渉術をどうやって磨いていらっしゃるのでしょうか。先ほど国民性の話も出ましたが、日本人はやはり、どうしても「シャイ」というか、主張すべきところで主張することが苦手のように思います。

 あるいは、グローバルな交渉の場面では、エリートの「教養」が求められるという印象もあります。根本的な教養、特にギリシャ、ラテンから連綿と続く西洋文化に関する知識がないために、ちょっとした冗談や、雑談についていけなくて、その背景にある重要なニュアンスがわからないのではないかと……。

国際交渉では
ヨーロッパの教養が必須?

片山 もちろんヨーロッパ的な教養は、どんなにあとから付け焼き刃で勉強しても足りない部分はあります。ただ、なにも古典を引用しながら話ができたからといって、尊敬されるわけではありません。その人が、ある会議の場でその国を代表して述べる言葉に、論理的で合理的、客観的な説得力があると周囲に評価されていること、それこそが重要なのです。それは前編でお話しした、正確な外国語を話すということにも、分かちがたく結びついています。

 また、もし周囲がヨーロッパに共通の話題で盛り上がっていたとしたら、自分も自らの文化に根ざした「普遍的に一般化できるエピソード」を話すことで、自分の土俵に引き込めばいいのです。自国の話でも、趣味の話でもいい。相手が日本文化をもともと知っているかどうかにかかわらず、自分の説明の中に、彼ら彼女らにも通じる「一般化できる要素」が入っていればよいのです。

 たとえば誰かが、アレキサンダー大王があの時代においては、「『革新的な』要素を持ったリーダーだった」という話をしたとしましょう。あなたも堂々と、日本の戦国時代という戦乱の時代にも、「織田信長」というリーダーがいて、彼はこれこれの点で近代的だったし、これこれの点で合理的で、それまでの中世の価値観と断絶していた……という話をすれば、おそらく日本史を知らない人も、興味を持って聞いてくれるはずです。大事なのは、自分の話に普遍性を持たせ、一般化させられるような論理的な説明ができることです。

秋山 外国語を使うか否かにかかわらず、ビジネスマンが自分の専門領域でないところで話をしなければならないときにも大いにヒントになるお話ですね。たしかに相手と比べて貧しい経験や知識しかなかったとしても、それを要素に分解し本質を理解していれば、必ず普遍化できることがある。その部分をうまく伝えることで、相手との一体感を醸成するわけですね。

片山 また、表の場面、つまり公式の会談では、堅苦しくて難しそうな相手でも、夜の晩餐会で隣の席になって多少プライベートのことも話すようになると、一段深いレベルで交渉することができるようになることもあります。表と裏の使い分けではありませんが、いくつかの「交渉のレベル」があるように思います。