また、中国(当時の清)は過去に英国とアヘン戦争をして敗北し、南京条約で、今も話題となっている香港を割譲する(植民地化される)など不平等条約を結び、「主権を侵された」屈辱が相当なトラウマになっています。

 こうした過去もあり、領土など主権に関しては非常に敏感になっているところがあると思います。アメリカに並ぶ大国になったのに、自国がそこまで大きくなったことをその点では意識できていないとでもいうのでしょうか。

 とはいえ、中国はビジネスを行ううえで、いまや欠くことができない存在です。14億人の市場は圧倒的ですから、これからも日本は中国と適切なパートナーシップを築いていかねばなりません。
 
秋山 中国の力が増してきて、中国における日本のプレゼンスが下がっているともいわれます。

片山 確かに事実ですが、それだけではありません。中国は競争主義の社会です。ともすれば、他人を蹴落としてもお金をもうけたいというような上昇志向の強い人もいる。その一方で、誠実さや人と人との信頼に基づいた日本社会に対してリスペクトを持った中国人もいる。そうした意識を持つ人にとっては、相対的に日本の価値は高くなっているようです。少子高齢化、人口減少、医療保険、年金、環境保護など共通の問題に直面し、日本の知見を学ぼうという姿勢も強くなっています。

秋山 中国に日本の誠実さや信頼に基づく社会のありかたを評価している人たちがいるというのは、非常に希望の持てるお話ですね。

 交渉の心得、自分の土俵に惹(ひ)きつける話術など、外交官の奥義をたくさん教えていただきました。今日はありがとうございました。