戦死した伯父が、出征時に贈られた日章旗を、米国の海軍兵士に託していた。それも、殺すか殺されるかという戦時下に、無人島に漂着した日米の兵士が、協力し合って飢えをしのいだ際の出来事だと元米兵士は言う。この証言を信じるとすれば、国同士の戦いは、人同士の信頼の前に無意味だということを示しているように思えてならない。(モチベーションファクター代表取締役 山口 博)

出征時に贈った日章旗が戻ってきた

元米兵から返還された伯父の日章旗、 個の信頼関係が国の争いを超えた日戦時下、無人島で日米の兵士が信頼関係を築いていたようです Photo:PIXTA

 8月15日、75回目の終戦記念日を迎えた。戦没者の遺族の無念さははかりしれず、遺族のみならず多くの人が平和への思いを改めてかみしめたはずだ。戦時中、遺族の思いは、出征の際に友人や知人、近所の人たちと共に寄せ書きした日章旗に込められた。戦死の悲報に接し、その思いが無に帰したときの遺族の悲しみはいかばかりか。

 無念の思いはとどまらない。出征した日本の兵士が肌身離さず身に付けていたこの日章旗を、米兵は「戦利品」として祖国へ持ち帰ったという。現在でも「寄せ書き日の丸」(Japanese prayer flags)と呼ばれ、オークションやアンティークショーなどで売買されている。このことほど、遺族の思いを踏みにじるものはない。

 一般財団法人日本遺族会は今日でも、厚生労働省から委託を受けて、「戦没者遺留品の返還に伴う調査」事業を推進している。米国オレゴン州の後任非営利団体であるOBON ソサエティとも連携し、日本の遺族の思いに応えるために、戦利品として米国に持って行かれた日章旗の、日本の遺族への返還運動に取り組んでいる。

 私には遺族の思いが分かる。寄せ書きされた日章旗が米国から戻ってきた遺族の一人だからだ。ただし、戦利品として、米国に持って行かれたものではなかった。戦死した伯父が、米兵に託したものだというのだ。