もしこれまで理詰めで経営陣に新型コロナウイルスの脅威について説明しても響かなかった場合であっても、まずは以下のような内容で、経営陣から全社に向けて社内発信(ビデオ動画など)してもらうことを検討してみましょう。

 今、このコロナ禍において、企業の経営陣が従業員に対して行うべきことは、「安心・安全」を担保する感染防止対策と、企業が進む方向性のメッセージや施策を発信することです。例えば、以下のような内容です。

・テレワークの継続と時間管理をしない労務管理や賃金保証
・病気休暇制度の新設
・高リスク者への配慮と対応
・集団感染(クラスター)防止策の周知徹底
・With コロナ、New Normal に向けた企業理念、行動変容

 危機管理部門の責任者は、経営者が正常性バイアスに陥っている可能性を頭に入れつつ、上記のようなメッセージを経営陣から従業員に発してもらうよう、なんとか促します。それができれば、次のステップとして、具体的な準備をするよう、経営陣がさまざまな行動施策を指示するようになるかもしれません。

 ヒトは、脅威に立ち向かう第一歩が踏み出せていない場合、この第一歩として行うべき行動を他人に示してもらうことで、次の行動へとスムーズに移行できます。例えば、地震の際、各自に机の下に隠れるという最初の行動を指示しておけば、次に何をすべきかを各自が考え、行動に移しやすくなるのと同様です。

 我々のようなBCP(事業継続計画)や危機管理を専門にコンサルティングしている人間は、顧客企業の管理職や経営幹部層が、震災発生直後は瞬間的に正常性バイアスに陥ることを前提にして、従業員教育を行っています。つまり、地震発生直後は従業員に「自助」、自分の身は自分で守ることを徹底してもらうのです。

 しかし、今回のコロナ禍は震災と違い、長期にわたってストレスを受けていますので、正常性バイアスが瞬間的なものではなく、長く続くことになるでしょう。ですから、危機管理部門の責任者は、経営陣に脅威へ対処するための第一歩を示し、行動してもらうことで、この状況を打破できるように根気強く行動していくことが大切なのです。