誰でもビジョンを
デザインできるようになっていく
佐宗 子どもたちのワークショップでは、もう一つ気づきがありました。子どもたちからは、「学校で勉強するよりも取り組みやすかった」というフィードバックをもらったことです。
「僕たち、私たちの未来展」というテーマで、「あなただけのひみつ道具をつくろう」というワークショップをやったんですが、その後の感想として、「学校ではなく家でやったので、友達の目を気にせず自分の好きなものを描けた」という反応があったんです。学校では友達との関係を気にしますが、それに対してSTAY HOMEというのは逆にいうと、家は自分自身の、自分だけのモードになれる場だということに気づきました。
また、今回は親子でやりましたが、親が「うちの子、こんなことができるなんて知らなかった」という声も多かったんです。親子の関係の中で、親が子どもに何かを教えるというヒエラルキーではない関係性が生まれ、それにより親子がお互いにやりたいことをリスペクトしあうという、すごくユニークな場になったと思います。その後振り返りをやってみると、ワークショップの後、子どもに対する声がけが変わったという親御さんの意見を聞いて嬉しくて泣きそうになりました。
――コロナの時代、そうした透明性が高いオンラインのワークショップは必要になりますね。最近、佐宗さんが提供されているオンラインプログラムはどのようなものでしょうか?
佐宗 大企業でもテレワークが進んでいますし、自宅での学習も進むことから、自宅を自分のビジョンのアトリエにして、自分のペースで学んでいけるオンラインのプログラムを作りたいと思いました。Udemyで、自宅にいながら社会人や、先生が自分でVISION DRIVENな学びを学べるオンラインコース「妄想からインパクトを生みだす【ビジョンのアトリエ講座】」を作りました。これは、コロナが起こるかどうかにかかわらず作りたかったコンテンツなんです。1冊の本を読んで1つでも2つでもアクションをする人は、僕の感覚では10パーセントくらいで、80パーセントの人は読んでおしまいです。さらに、アクションした人で人生が変わるような人はそのうちの数%だと思います。僕は、本というのは人生が変わる媒介になってほしいと思っていますが、やはり本だけでは限界があると思ったんです。ですから、ワークショップや読書会をさらに進めていく方向です。
今は、いろいろな人がオンラインで学べるようになってきています。オンラインで自分のペースで自分の必要な課題に対して、自分のビジョンを明確にしていくプログラムをつくったり、そのプログラムを友達や同僚と一緒に並走してやってみる。
実は、『直感と論理をつなぐ思考法』は、元々は、京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)で今でいうアート思考のワークショップのプロトタイプとして実践したものを元にまとめたものなんです。その半年後にはワークショップに参加した人たちの2~3割の人が転職したり、新しいプロジェクトを始めるなどの行動変化が起こったんです。僕が並行して教えている大学院大学至善館でも構想する力という授業で、全部オンラインで実施したのですが、授業を受講した学生の一人が、授業で描いたビジョンを実現する形でインクルーシブファッションの会社を立ち上げ、ピッチコンテストで受賞するような出来事もありました。少しでも多くの人が自分自身の希望の星、みたいなものを見て、この時代に新しい可能性を切り拓いてほしい。そういう人が少しでも増えたらいいなと思ってプログラムをつくりました。
――プログラムでは、実際にビジョンをデザインして作品にするところまでやるのでしょうか?
佐宗 はい。連続的に自分のビジョンを作品にするところまでのプロセスを実際にやるようになっていますが、最初は、自分の苦手な部分から始められるようになっています。多くの人が「自分はビジョンを持っていない」と思うのには5つの理由があるんです。
(1)余白の欠如:そもそもヒマがない、(2)現実性の罠:現実性を考えすぎてしまう、(3)解像度の不足:現実性ではないビジョンが見えるけれど具体化できない、(4)独自性の欠如:アイデアを考えたとしても独自性がない、(5)表現力不足:すごいビジョンを考えたけれどほかの人に伝わらない、といった理由です。これらを解決しないと、最終的にはビジョンは論理の世界につながりません。
これは実は、各人がどこのフェーズを課題としているのかで、やることは異なります。
(1)そもそもヒマがないのであれば余白をつくらないといけないし、(2)現実性が強すぎるのであれば妄想力を鍛えたほうがいいし、(3)妄想は得意だけど関心がないのなら知覚力を養わなければなりません。(4)アイデアはたくさん出せるけれど独自性がないなら組替力、(5)人になかなか伝わらないのであれば表現力を養うことです。
ですから、まずはその人の課題に合わせて必要なエクササイズを行います。この講座では、それぞれが行うエクササイズを動画でもイメージできるようにしています。エクササイズでは、一人のアシスタントが、ゼロからビジョンを絵にするまでのプロセスもアドバイスしていきます。
そういう形で、最初はそれぞれの方にとってのビジョンの課題解決からスタートして、最終的にはビジョンを具体化した作品ができるようなプログラムになっています。
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー
大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授
東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科(Master of Design Methods)修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニーに入社。同クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。BtoC消費財のブランドデザインやハイテクR&Dのコンセプトデザイン、サービスデザインプロジェクトが得意領域。山本山、ぺんてる、NHKエデュケーショナル、クックパッド、NTTドコモ、東急電鉄、日本サッカー協会、ALEなど、バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っており、個人のビジョンを駆動力にした創造の方法論にも詳しい。著書にベストセラーとなった『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』などがある。