ショートカットキーをマスターしてもカッコよくない?

――「できちゃうから、非効率なまま使い続けてしまう」というのは非常に興味深い指摘ですね。

 実際、多くの人がすごく忙しく働いているのに、一番使っているはずのキーボードやマウスについては完全にスルーしてしまっている。そこを効率化することで可処分時間を増やすことができるのに、やらない人は多いですね。すごくもったいないと思います。人生の砂時計を無駄にしてしまっているな、と。

 それともう一つ「あまり自慢ができない」というのも理由の一つだと思います。「俺はこういう知識を持っているんだ!」「こんなノウハウを学んだぞ!」と手に入れた知識でマウンティングするような人っていますよね。そこで自己肯定感を生むとか、自分と他者との差分を確認するというか。

――いろいろ思い当たる節はあります(笑)。

 こんな言い方をすると、いろんな方面の人に怒られちゃうんですけど、知識やノウハウをアピールするには、それが他人から見えやすいことがけっこう大事なんです。「すごく斬新な会議術を身につけました」「ファシリテーション能力がアップしました」となると周囲からわかりやすいじゃないですか。だから、自慢しやすいというか…。

 しかし、脱マウスで「ショートカットキーをたくさん覚えました」って言っても、誰にも伝わらない。自分が日常的に活用しているショートカットキーが2個から5個に増えて効率がよくなっても、周りの人はまったくわからないですよね。差分が表層化しないんです。

オフィスワーカー全員が「脱マウス」すれば、日本の生産性は急上昇する

――その凄さが伝わらないというか、自慢やマウンティングができないわけですね。

 まさに、そうです! SNSでも「新しいビジネスメソッドを学んだ」とか「今、話題の組織論の本を読んだ」「セミナーへ行った」となると、その内容をアップするじゃないですか。要するに、カッコいいんですよ。でも、「ショートカットキーを100個覚えたぜ!」と自慢している人はなかなかいません。その風潮自体を私は変えたいと思っています。

 ショートカットキーを活用して、脱マウスで仕事を効率的かつスマートにやっている人って、じつは生産性もすごく高いし、カッコいいんです。ただ、そのスキルが個人の中で完結しているために、誰にも伝わらないし、カッコいいともあまり認識されません。その空気自体を、この本を読んで多くの人が「脱マウス」を実現し、スマートに仕事をすることで、変えていきたいと思っています。

――「脱マウス」「ショートカットキー」ができない方がむしろカッコ悪い。そんな風潮になったらおもしろいですね。

 本当に、それを目指しています。もちろん、会議術も、ファシリテーションスキルも、新しいビジネスメソッドも、組織論も全部大事なんですよ。それを否定するつもりはまったくありません。でも「実際、何に時間を一番使っていますか?」と言えば、パソコン作業なんです。キーボードやマウスに触っている時間が一番長い。

 人にもよりますけど、会議やファシリテーションに使っている時間って、仕事全体のおそらく10%とか、20%。残りの8割、9割はパソコンで作業しています。地味ではありますけど、そこの部分のスキルを磨いて、徹底的に効率化を進めている人って最高に素敵じゃないですか。カッコいいじゃないですか。そういう人の背中を押したい。そんな気持ちはすごくあります。