ゲーム理論を学ぶと、意思決定が戦略的になる

――安田さんから本書の鋭い読み解きを伺いましたが、鎌田さんから改めて本書を執筆した狙いをご説明いただけますでしょうか。

鎌田:ゲーム理論って、実は経済学の中でも重要な理論で、しかもお金を扱う問題だけではなく、政治や社会のこと、はては生物学に至るまでその応用先は広いんです。しかも、学術上汎用性が高いというだけではなく、専門家の間で共有されている多くの知見は実際の社会でも役立つと思います。

 しかし、「ゲーム理論」と聞いたことがあって学びたいのだけれど、難しそうで敬遠してしまう、という声をよく聞いてきました。それで、ゲーム理論家側からの情報発信はまだまだ足りていないなと、僕はずっと思っていたんです。ここのギャップを埋めたいと思ってました。

 ゲーム理論の面白さや意思決定の際に戦略的に分析することの大切さを伝えることにフォーカスしてそれができればな、と思って、本書を書きました。それでしかも、もし「ゲーム理論」って聞いたことがなかったような人にもこの本が届いて、新しく考えるきっかけになれば、さらに嬉しいですね。

安田:この本を読むまであまり深く考えずに意思決定していた人たちが、今後ある行動をとる際に、相手の立場や自分の行動が周りに与える影響について、一歩引いて考えて、行動を変えてみようとするでしょうね。そういう意味で、気づきや行動変容につながる、読むことによってより良い意思決定ができるようになる本なので、今までにないタイプの書物だと思います。

――「社会で役立つ」、「行動変容につながる」、というお話がありましたが、ゲーム理論が「世の中に役立つ」という視点で考えていることは何かありますか?

鎌田:ゲーム理論が提供できるものって、すぐ実践的にビジネスなどで明確に使えるツールと、「考えが深まる」という抽象的なレベルの思考法(戦略的思考)の2種類あって、この本が伝えようとしているのは後者に当たります。

 この本を読んだ読者が物事を様々な角度から見られるようになることを目指して、執筆しました。「戦略的思考」が身について、それをこの本を読んだ直後からでも活用できるのではないかと思います。

安田:その文脈でいうと、僕の印象に残ったのは第3章の「ケーキの値下げ競争」。競争相手を機械のように単純な存在として考えるのではなくて、相手の立場になって考えてみる。たとえば、相手が値下げしたときにその値下げの意図まで掘り下げる考察って、普段はあまりしないんです。

 なので、こういう身近なケースで説明することで、戦略的思考の重要性がものすごく伝わりますね。