外出自粛やテレワークなど、ライフスタイルの大変革を余儀なくされたコロナ禍にあって、当然人々の消費行動も大きく変容を遂げ、すでに日常となりつつある。特集『賢人100人に聞く!日本の未来』(全55回)の#12では、「草食系男子」など世相を表す消費キーワードを生み出してきた世代・トレンド評論家の牛窪恵氏に、これまでのマーケティングの常識が通用しなくなるコロナ後の世界で、各企業が消費者に選ばれ続けるための処方箋を聞いた。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
本格的な消費の冷え込みはこれから
何としても雇用だけは死守すべし
――緊急事態宣言下の4月と5月の実質消費支出は、前年同月比で、それぞれマイナス11.1%、マイナス16.2%。比較可能な2001年以降、過去最大の下げ幅を記録しました。
まずは旅行・観光業界が直接的なあおりを受けた状態ですが、7月の「Go To トラベル」では、宿泊料金が高いところから予約が埋まっていたようです。
また、Go To トラベルで除外された東京都を中心に、7月の4連休は、宿泊費の高い都心のラグジュアリーホテルが比較的混雑しているのを、現場で確認しました。世の中全体として、まだ「お金を使えない」という雰囲気にはなっていないと思います。
しかし、バブル崩壊やリーマンショックでもそうでしたが、市民生活に影響が出るまでには少し時差がありますから、コロナ危機が本格的に波及してくるのは、これからでしょう。
――今後、さらに状況は悪化するのでしょうか。
まずは天候も影響し、野菜の値段が上がり始めました。このように食品をはじめとする消耗品の値段が上がると、どうしても財布のひもは固くなります。
そして、先の見えないコロナ危機にあって、どこまで企業が雇用を維持できるか。雇用が崩壊して失業者が増えると、可処分所得が高い層まで蛇口を閉めるようになってしまいます。
企業も苦しいところではありますが、経費削減や副業の大幅な解禁、そして人材シェアリングなど、できる限りの対策を駆使して、なんとか雇用だけは死守してもらいたいですね。
海外では逆にこういう危機こそビジネスチャンスと捉え、M&Aなども積極的に行う傾向がありますが、日本だと企業は内部留保を持とうとするし、個人は貯蓄に走る。自然と投資も消費も起こりづらくなってしまいます。
――東京五輪・パラリンピックの延期によって失われた消費機会も甚大です。
観光・旅行業界への影響はもちろんですが、五輪は家族や仲間同士で、会場や家ナカで楽しむイベントとして期待されていました。コロナ禍の恩恵を受けたとされる「巣ごもり消費」の一部、例えば外食のデリバリーやテークアウト、お好み焼き粉などの食材、ホットプレートなども、五輪が予定通り開催されていれば、もっと消費額が伸びたのではないでしょうか。
純粋にコロナ禍によって消費が伸びたといえるのは、実は消毒液やマスクくらいかもしれません。ただ、巣ごもりの時間が増えると、人は「外出先でぼーっとしながら、窓の外の景色を眺めたい」などと考え始めます。少しコロナが落ち着いてくれば、カフェをはじめとした第三の居場所“サードプレイス”の需要が高まるはずです。