コーポレートガバナンスへの関心が高まる昨今、中でも、取締役会の機能・役割や、社外取締役の招致・人選に頭を悩ませる経営者は多いでしょう。取締役会・社外取締役が果たす役割や、機能とはどういったものなのでしょうか。本稿では、会社のフェーズごとに、それらの役割・機能がどのように進化していくのか、考察を深めます。

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フェーズごとに異なるコーポレートガバナンスのあり方

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):今回は、株式会社における取締役会のあり方、というテーマについて話をします。

未上場スタートアップにも、上場大手企業にも、取締役会はありますが、会社のフェーズに即して、取締役会のあり方もいくつかのパターンに分けられると思います。順に話していきましょう。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):個人的には、投資家の数が増えることによって、取締役会の位置づけが進化していくと考えています。ですので、取締役会の進化の過程を、外部ステークホルダーの増加と連動させて考えていくと、有意な分類ができるのではないでしょうか。初めてVCが入り、取締役会を設置した、というフェーズをフェーズ1としましょう。このフェーズにはどのような特徴がありますでしょうか。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):それまでは社内取締役だけで経営会議を構成してきたところに、初めて外部から取締役が入ります。しかし、このフェーズでは、実態としては、社外取締役も一緒になって、事業・組織といった執行議論をしていることが多いでしょう。管理・監督といったガバナンスの観点というよりも、実行推進のための議論をしている。そういった時期だと思います。

しかし、複数のVCが入り、調達ラウンドを重ねていくと、ステークホルダーが増えてくるので、一緒に議論する、というよりも、ステークホルダーに対して説明責任を果たす、という側面が強くなっていきます。これをフェーズ2と定義して良いと思います。

次に、上場を意識し始めると、より明示的にガバナンスを意識する必要が生じます。取締役会で議論するテーマについても、ある程度線引きがされてきます。きちんと運営できている会社の場合、取締役会ではより中長期でマクロな視座の戦略テーマを議論し、会社の方向性を左右する大きな意思決定を行う機関として運営されていきます。これをフェーズ3としましょう。

このフェーズ3は、マザーズ上場を果たした後のスタートアップをイメージすると良いでしょう。

これをさらに進化させた姿は、大企業に見ることができます。中でも、ガバナンスレベルがトップクラスにある企業ですと、複数の社外取締役を設置し、社内取締役を管理・監督する役割を担う、かなり緊張感のある取締役会になります。

社外取締役の背後には、不特定多数の株主がいて、彼らを代表して、社外取締役は、経営者の行動を監督する立場を担います。これをフェーズ4と定義しましょう。

朝倉:コーポレートガバナンス改革の機運が高まって以降は、コーポレートガバナンスは徐々に関心が高まっているテーマではあります。しかし、世間一般に語られる「コーポレートガバナンスのあり方」「社外取締役・取締役会のあり方」とは、得てして、フェーズ4の大企業を想定したものです。

このフェーズ4の取締役会のあり方に関する理想像が、必ずしもフェーズ1・2・3の会社の実態に適合するわけではないと思います。

小林:そのとおりですね。アーリーステージのスタートアップ、先程の分類で言えばまさにフェーズ1に相当する会社から、「フェーズ4のコーポレートガバナンスのベストプラクティスを教えてください」といった質問を受けることがあります。

知っておくこと自体は問題ないのですが、フェーズが合わない、ステージの違う会社のガバナンスを無理に持ち込んでも、百害あって一利なしだと思います。学ぶべきは、それぞれのフェーズに合ったベストプラクティスなのではないかと思います。

「取締役会=守りの機能」ではない

村上:これまで、ステークホルダーの増加に応じてフェーズを分け、取締役会のあり方を考えてきました。ここで、少し角度を変えて、取締役会の役割について考えてみましょう。その役割とは3つあり、まず1つ目は、株主価値を最大化する役割、次に、経営を管理・監督する役割、3つ目は、外部株主の利害を代表する役割です。

先述したフェーズ1では、創業メンバーに近いごく少人数で経営していますので、経営の管理・監督や、外部株主の利害を代表するといった役割はあまり必要とされない。ですので、取締役会の役割は、株主価値を最大化することにフォーカスされます。言い換えれば、とにかく事業成長のための議論が最重要とされるフェーズだということです。

続くフェーズ2では、株主への説明責任が増します。フェーズ3では、上場準備~上場後の企業が含まれますから、上場時に求められる管理監督機能の強化は必然です。

このように、フェーズごとに、順に、取締役会に求められる役割が増えていくというふうに理解するとよいと思います。

フェーズ4まで進化すると、取締役会は、この3つの役割を当然に果たすべきですが、改めてベーシックな「株主価値最大化」という役割の重要度がさらに増すでしょう。

朝倉:ガバナンス、取締役会というテーマにおいては、往々にして「守り」のイメージが先行します。「管理・監督」と聞くと、「あれはだめ、これもだめ」方式に、制約・制限が増すものだと捉えてしまいがちでしょう。しかし、ガバナンスの本分は守りに閉じるものではなく、「攻め」の機能、つまり会社が正しくリスクテイクして成長するための役割も担うものだ、と意識するべきだと思います。

特にフェーズ1・2・3の企業では、この「攻め」の視点がより重視されて然るべきと思います。フェーズ1や2では、株主・社外取締役などのステークホルダーが少ないため、実質、管理者・監督者の立場のステークホルダーも、日々議論する経営メンバーの一部に取り込まれていくものです。

それにより、自然と経営陣も、日々の執行議論の中で守りの視点を意識する機会を多く持てるはずです。ならば、このフェーズの会社では、取締役会は、より攻めの視点、株主価値の最大化や事業成長に意識が向かって然るべきでしょう。もちろん、フェーズ4の企業であっても、攻めの意識は必要ですが、必要とされる度合いとしては、フェーズ1・2・3の企業の方が強いと思います。

村上:同感です。究極的には、フェーズに関わらず、取締役会の最重要機能は「株主価値の最大化」であって、そのために攻めと守りのどちらに軸足を置くべきなのか、がフェーズによって異なるとも言い換えられるかもしれません。

一般的に取締役会と聞くと、経営に説明責任を求める、経営の管理・監督をするといったイメージが先行し、守りの機能だと捉えられがちですが、それは本質を見誤った解釈なのではないかと思います。

社外取締役に適した人材とは

小林:これまで取締役会の役割について議論してきましたが、社外取締役にフィットする人材も、フェーズごとに異なると思います。社外取締役の人選について相談を受ける機会も多いのですが、フェーズが進めば進むほど、株主視点を持っている人材が必要となるでしょう。逆に早いフェーズでは、事業に強い人材のほうがフィットしやすい。

ですので、一概に、社外取締役に適した人材とはどんな人物か、と考えず、会社のフェーズを意識することが大事だと思います。

村上:そうですね。見てきたように、社外取締役・取締役会に求める機能や視点は様々ですから、複数のタイプの、複数の社外取締役を取り込むことが有効でしょう。弁護士のように管理・監督の分野に明るい社外取締役と、事業戦略・執行に強い社外取締役、といったように、複数の強みを取り込むことで、多面的なガバナンスを構築できると思います。

朝倉:また、社外取締役が誰を代表しているのかという観点も重要です。フェーズ1では、外部株主と言ってもVCが1、2社といった状況ですので、株主と社外取締役が完全に一致していてもあまり大きな問題はありません。

しかしフェーズ2・3となってくると、一部の株主だけの利害を直接的に体現する人物ではなく、少数株主を含めて、より中立的な立場の社外取締役が必要になります。その会社の状況に適した独立した社外取締役の方を招致することが重要だと思います。

*本記事はVoicyの放送を加筆修正し(ライター:正田彩佳 記事協力:ふじねまゆこ)、signifiant style 2020/8/2に掲載した内容です。