「慢性痛」に悩む人は多い。日本は世界有数の医療先進国であるはずなのに、痛み治療に関しては「20年遅れ」が定説となっており、「慢性痛医療後進国」であるのが実情。そんな中、大阪府の千里山病院「集学的痛みセンター」は、慢性痛に対して入院治療を実施している稀有な医療機関だ。同センターを立ち上げた柴田政彦医師(奈良学園大学 保健医療学部教授)に取材した。(医療ジャーナリスト 木原洋美)

心臓病患者を社会復帰させる
移植手術くらいの価値がある

柴田政彦(しばた・まさひこ)/ 奈良学園大学保健医療学部教授、千里山病院集学的痛みセンター医師 柴田政彦(しばた・まさひこ)/ 奈良学園大学保健医療学部教授、千里山病院集学的痛みセンター医師 Photo by Hiromi Kihara

 大阪府豊中市にある千里山病院の「集学的痛みセンター」は、慢性痛に対して入院治療を実施している希少な病院の1つだ。センターを立ち上げたのは柴田政彦医師(奈良学園大学 保健医療学部教授)。かつて大阪大学医学部附属病院の疼痛医療センターにいたころ、慢性痛患者のリハビリテーションを千里山病院に委託していた縁で2017年にオープンさせた。現在は、近畿地区に点在する複数の「痛みセンター連携施設」と連携し、治療にあたっている。

「慢性痛の治療には、若くして心臓病で寝たきりに近い生活をしていた患者さんが、移植手術を受けて社会復帰するのと同じくらいの価値がある」と語る柴田医師だが、日本では、痛みはケガや疾患に伴う症状の一つとしか捉えられておらず、痛み自体を治療の対象とする概念はあまり普及していないことに長年もどかしさを感じてきた。