2017年、NASAが運営するクラウドソーシングプラットフォームZooniverseで、系外惑星(太陽以外の恒星の周りを公転する惑星)を探す「Exoplanet Explorers(系外惑星探索者)」というプロジェクトが発足しました。
このプロジェクトには、1万人以上の市民科学者が参加しました。そして、なんとわずか48時間のうちに、少なくとも5つの惑星を持つ新たな惑星系(K2-138と命名)が発見されてしまったのです。
惑星を識別するには、恒星の明度に注目する必要があります。恒星の前を惑星が横切るときには、恒星の明度が落ちるからです。本職科学者たちが持て余していたデータに、膨大な人々の多様な知覚が組み合わさると、それだけでごく短時間のうちにここまで大きな発見につながる──これは驚くべきことです*。
創造性やイノベーションがますます求められるいま、個人レベルの知覚を育てることはもちろん、バラエティ豊かな知覚を「組み合わせる」という観点も、重要になってくるでしょう。
https://www.zooniverse.org/projects/ianc2/exoplanet-explorers/about/research
「コップの水」から
ドラッカーが導き出した意味
ここまでは知覚の持つ創造的ポテンシャルについて触れてきましたが、知覚は意思決定にも決定的な影響を与えます。人生でもビジネスでも、どんな知覚を持っているかによって、その先に待ち受けている未来が大きく変わってきてしまうのです。
「市場におけるビジネスチャンス」を判断するときには、「知覚」が途轍もない影響力を持つと説いた人物がいます。それはあの「マネジメントの父」、ピーター・F・ドラッカーでした。
ドラッカーは、コンピュータが市場で販売されはじめた当時の2種類の知覚を挙げています。
「コンピュータを利用するのは大手企業でしかない。ビジネスチャンスは限定的だから参入はしない」という意思決定は、いわば「コップにはもはや半分水が満たされている」と解釈する人のものです。
逆に、「一個人であっても、所得税を計算するために気軽にコンピュータを買うようになる。ここにはビジネスの可能性があるから参入しよう」という決断は、「コップはまだ半分空である」という知覚から生まれるものです。*
知覚の差がビジネスの行く末を大きく左右する点は、現代においてもまったく変わりません。意思決定者がどんな知覚を持つかによって、巨大なビジネスチャンスにつながることもあれば、それを逃すこともあります。
たとえば、みなさんが起業するとして、健康食品が商材の選択肢の1つだとしましょう。眼の前に広がる市況を見たときに、「半分水が満たされている=市場はかなり飽和状態」と考えるか、あるいは、「半分空である=まだ参入する余地がある」と考えるか──。それを決めるのは、ビジネスの担い手であるみなさんの知覚だけです。
より具体的かつ典型的な実例で言えば、楽天会長兼社長の三木谷浩史による携帯電話事業への新規参入が挙げられるでしょう。「大手3キャリアが牛耳っているマーケットに、わざわざ入っていくなんて……」というのが、世間の大方の知覚ではないでしょうか。
それにもかかわらず、彼は「グラスはまだ半分も空いている」という自身の知覚に従って、この事業へ舵を切ることを決断したわけです。さて、結果はどう出るのでしょうか
(本原稿は、『知覚力を磨く──絵画を観察するように世界を見る技法』の内容を抜粋・編集したものです)