久夛良木健(くたらぎ・けん)氏と言えば、ソニーの家庭用ゲーム機・プレイステーションを生み出した人物として広く知られている。その久夛良木氏がソニーの経営を退いてから13年目の今年、ある異色のベンチャー企業のトップに就任した。いったい何が始まるのか?(ダイヤモンド編集部副編集長 杉本りうこ)
「僕にハンドルを握らせろ」
そして無報酬で?
「今の気持ちを一言で?わくわくだね。僕にハンドルを握らせろ、という感じ」。恵比寿駅から徒歩7分程度、小ぢんまりとしたオフィスビルの一室で、久夛良木氏は語った。
ここは創業5年目の人工知能(AI)開発会社、アセントロボティクス。久夛良木氏は8月26日付で、アセントの代表取締役兼最高経営責任者(CEO)に就任した。18年から同社の社外取締役を務めてきたが、今回は創業者のフレッド・アルメイダ氏から株式を買い取り、筆頭株主かつ経営者となった。
久夛良木氏は2007年にソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE、現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の代表取締役会長を退任したが、決して早期リタイアで悠々自適の日々を過ごしていたわけではない。楽天や角川グループホールディングス(現KADOKAWA)などの社外取締役を務めてきた。ソニーにゲームビジネスという大きなドル箱を残した久夛良木氏から、技術とマネジメントの両面について助言を求めたい企業はたくさんある。
引く手あまたの中で選んだ、決して有名ではないベンチャーの経営職。久夛良木氏にとっては、特別な選択だという。「僕が進んでCEOをやるって決めたわけだから、別格だよね。役員報酬もいらない。雇われてやるわけじゃないから」