佐藤優氏絶賛!「よく生きるためには死を知ることが必要だ。」。病理医ヤンデル氏絶賛!「とんでもない本だった。語彙が消失するほどよかった」。「死」とは何か。死はかならず、生きている途中にやって来る。それなのに、死について考えることは「やり残した夏休みの宿題」みたいになっている。しかし、世界の大宗教、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教などの一神教はもちろん、仏教、神道、儒教、ヒンドゥー教など、それぞれの宗教は、人間は死んだらどうなるか、についてしっかりした考え方をもっている。
現代の知の達人であり、宗教社会学の第一人者である著者が、各宗教の「死」についての考え方を、鮮やかに説明する『死の講義』が発売直後から話題となっている。コロナの時代の必読書である本書の著者・橋爪大三郎氏の特別インタビューを全5回にわたってお届けする。第4回は、ベストセラー著者であり、宗教や社会にまつわる難解な知識をわかりやすく伝える橋爪先生の文章作法について話を伺った。
(取材・構成/川代紗生)
文章は「結論」から書く
──伝わりやすい文章を書くために、おすすめの方法はありますか?
橋爪 「トピック・センテンス・メソッド」というものがあります。ひと言で言うと、結論から言うということだ。考えているときには、結論って、最後に出てくるでしょう? ああでもない、こうでもないと考えて、最後に結論にたどり着くのが、頭にとっては自然なんです。
でも、書くときにこの順番でやったら、全部の「思考のプロセス」を読者にお付き合いさせないといけないわけです。時間がかかるし、負担が大きいですよね。もちろん、そういう本もあっていい。だけど、ビジネスで使う文章や、実用書に載せる文章は、結論から書くべきですね。著者が責任をもって、「これが結論です」と提示する。
「結論を提示する」ということは、前提や、途中のプロセスや、条件を理解しているということなんですよ。結論が出てくるプロセスを体系的に理解して、把握していないと、結論から書くことはできない。だから、文章の品質を保証するために、結論から書く「トピック・センテンス・メソッド」は、とてもいいやり方だと私は思う。
「トピック・センテンス・メソッド」については、日本では『理科系の作文技術』(中公新書)という本の中で木下是雄先生が紹介されているので、くわしく知りたい人はそれを読んでみてください。
表現の幅を広げたければ「小説」を読め
──橋爪先生の本を読んでいると、的確でわかりやすい表現が散りばめられているのがわかります。ボキャブラリーを増やし、表現の幅を広げるためにできる習慣などはありますか?
橋爪 いろんな小説を読むことでしょうね。だって、小説家って語彙のプロじゃないですか。あらんかぎりの能力を駆使して、情景を描写している。日本語の限界を試しているわけですよね。
買い物に行くとき、ふつうは自転車か、せいぜいファミリーカーかなんかに乗っていくでしょう。でも、小説というのは、スーパーに買い物に行くのに、ランボルギーニか何かの、そういう高速スポーツカーで行くみたいな話なんですよ(笑)。いろいろな能力や備品が満載なんですね。
日本語というのは、漢語と和語と片仮名でできているんです。漢語というのは2000年ぐらい前、途中で徐々に入ってきた外国語で、片仮名というのは、つい最近やってきた欧米語ですよね。そのなかで、言葉との距離感がなく、一番、「わかった感」が生まれるのは、和語なんです。
それから、スピーチのときにはとくに役に立つと思うんだけど、故事の言い回しをリストアップして、使えるような字引があるといい。たとえば、「負けるが勝ち」とか、「転ばぬ先の杖」とか、「江戸の敵を長崎で討つ」とか、熟語辞典に出ているようなものや、日常的な言い回しも。「あ! これ、いいな」と思っても、すぐ忘れちゃう。だから、そういうのをまとめて、これを活用しましょうみたいな本があるといいですよね。
たとえば、政治家の演説を聞いていると、官邸官僚が彼らの専門用語で書いているから、和語はほとんど出てこないですよね。中央省庁の文書は役人同士が理解できればいいので、日常語を切り離して置き換えるという、自己防衛の固まりなんです。
『パワースピーチ入門』(角川新書)という本にも書いたんですが、日常語でもスピーチができるはず。「本年度予算」とかは、どうしても漢語にしないといけないわけだから、それ以外のところを和語にする。言い訳をしないで、枝葉を削る。