1.「いま起きていること」は
起こるべくして起きている

 日中両国の国力は歴史的に類を見ないほど接近している。古代は中国が強くて日本は弱かった。日清戦争以降は日本が強大化し、中国は弱体化していった。

 第二次世界大戦が終わり、日本は敗戦から立ち直り、高度経済成長を遂げた。中国は文化大革命(1966~1976年)や第二次天安門事件(1989年)など国内では断続的に混乱があったものの、鄧小平氏によって打ち出された改革開放路線に乗り、経済規模で日本を追い抜くまで至っている。

 日中の間では、まさに19世紀に活躍したドイツの政治家・外交家ビスマルクが掲げていた、「勢力均衡」(Balance of Power)が台頭している。そして、アメリカを含めたアジア太平洋地域では、パワーポリティクス(権力政治)が展開されている。

 政策決定プロセス・環境をめぐる前提が変遷するなかで、日中双方の政府と国民が、プライドとコンプレックスの狭間で揺れ動いている。ナショナリズム、社会不安、政治の不安定、経済下降、政策不協調、ガバナンス力の低下……、日中の間では体制や価値観は全く異なるが、内的に抱える問題は案外、いや驚くほど類似性を持っている。

 これは近年浮き彫りになってきた、日中関係の新しい傾向だ。異質性と同質化の共存が進行する過程において、これまで両国の官民が前提にしてきた対日観、対中観は当然アップデートしなければいけなくなる。ただ、具体的に何を、どのように、どこまでアップデートすればいいのか。明確な基準など存在しない。

 たとえば、現在の日本の政治が不安定なのは誰もが認めるところであるが、いったいどれくらい不安定なのか。中国人は判断しかねている。一方、日本では中国経済の減速が騒がれているが、この現象は本当に企業として対中ビジネスを根本から見直さなければならない事態なのか。日本人は判断しかねている。双方が等身大の相手を理解しかねている状況下において、安定した外交関係をマネージすることが過去に類を見ないほど難しくなっている。

 だからこそ、両国政府と国民には長期的に「他者」と向き合い、付き合っていくと勇気と開き直り、そして戦略が必要だ。