「分割払い」のしょぼい仕組み

 たとえば、今年のあなたのボーナスが2500万円だとしよう。それを5分割すると、1つのスライスは500万円になる。つまり、今年のあなたのボーナスは2500万円だけど、あなたがすぐに受け取れる分はたったの500万円なのだ。そして来年も500万円、次の年も500万円、……4年後に500万円受け取れる。実際のところ、来年以降のスライスは自社の株価に連動するように設計されていることが多い。

 「トレーダーのインセンティブを金融機関の長期的な利益と一致させる」という要請は、最終的にこのような信じられないほどしょぼいものとして実装された。ボーナスを分割払いにするとなぜトレーダーが金融機関の長期的な利益を考えるようになるのか、僕は理解に苦しむ。

 もう1つの変化は「基本給の引き上げ」である。2009年頃、アメリカやイギリスでは、金融機関の経営者や従業員に対するバッシングが激しくなっていた。そして政治家は、金融機関の従業員に支払われるボーナスに特別な税金を課そうとしたのである。リーマン・ブラザーズが倒産しても、あの頃はまだバブルの余韻があって、自信を失っていなかった生き残った外資系投資銀行の経営者たちは、やはり全社横並びでボーナスと基本給の比率を変えたのである。

 すなわちボーナスを減らして、その分を基本給に回したのだ。これでボーナス課税を回避しようとした。上に政策あれば下に対策あり、である。これによって中堅トレーダーの以前の基本給は1200万円~1700万円程度であったが、一気に基本給が1700万円~2500万円程度に上がった。
  基本給というのは固定費で、多くの国の法律で下げることが困難な性質を持つ。

 以上の2つの変化は、外資系投資銀行業界のカルチャーを大きく変えた。

 ボーナスの分割払いが、2008年、2009年と続くと、たとえば両年に2500万円ずつのボーナスを受け取ったトレーダーは、2009年には500万円のスライス3つ分で、総額5000万円の内の1500万円しか受け取れていないことになる。ちなみにまだ支払われていない分割払いされるボーナスは、通常は、自らの意思で会社を辞めると消失する条件が設定されている。逆にいえば、このトレーダーは、会社に居さえすれば残りの3500万円を自動的に受け取る権利を持っていることになる。

外資系投資銀行の「日本化」