インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏「著者の知識が圧倒的」独立研究者の山口周氏「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。(イラスト:塩川いづみ)
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら

9割の人が知らない「過去に戻ってやり直したい」と思ったら読むべき5冊Photo: Adobe Stock

[質問]
 読書猿さんは過去に戻ったり時間を巻き戻す書物や方法を知っていますか? どうしても過去に戻ってやらなきゃいないことがあるんです。

今のところ、過去のやり直しはできないとされています

[読書猿の解答]
 タイムマシンについての文献はたくさんありますが、キップ・ソーンやポール・デイヴィスはタイム・パラドクスなどの因果矛盾が阻止されるメカニズムを想定していて、過去の改変(やりなおし)はできないとしています。

 少数ですが、因果矛盾の阻止に反対するデーヴィッド・ドイッチェのような物理学者もいます。ドイッチェは親殺しのような因果矛盾は、元の宇宙から改変された宇宙が分岐することによって解消されるべきと考えます。

 世界で最もタイムマシンの実現に近いとされるロナルド・L・マレット(2003年にタイムマシンのアイデアを米特許局に出願済)は、父の突然の死とハーバート・ジョージ・ウェルズのSF小説『タイム・マシン』との出会いから物理学者を志したガチな人ですが、2015年の記事によると実験資金の壁に直面しているようです。

 最後に、文献を紹介します。

 この分野の概説書としては、二間瀬敏史『タイムマシン論:最先端物理学によるタイムトラベル入門』(秀和システム、2006)があります。

 現代タイムマシン論の嚆矢となったソーンらの論文はこちら

 Morris, M. S., Thorne, K. S., & Yurtsever, U. (1988). Wormholes, time machines, and the weak energy condition. Physical Review Letters, 61(13), 1446. 

 論文の解説はこちら

 いろもの物理学者 前野昌弘のページ>ハードSFのネタ教えます>2.「物理学者によるタイムパラドックス分析」

 ソーン、デイヴィス、ドイッチェの日本語で読める文献としては

 キップ・ソーン『ブラックホールと時空の歪み アインシュタインのとんでもない遺産』(白揚社、1997年)

 ポール・デイヴィス『タイムマシンをつくろう!』(草思社、2003年)

 ドイッチュ,D & M.ロックウッド (1994)「タイムマシンの量子物理学」,日経サイエンス,vol.24,no.5, pp.64-71.

 マレットら『タイム・トラベラー : タイム・マシンの方程式を発見した物理学者の記録』(祥伝社,2010)