「あなたは何をしたいですか? 課長になったら、部長になったら、どうしますか? 夢は何ですか?とよく聞くようにしています。未来は青天井であると伝え、経営者としての高い視点で考えてほしいと話しています」と清川氏は言う。
商品の種類を絞り過ぎてはいけない
すべてがうまくいったわけではなかった。
EDLP(エブリデイロープライス)を打ち出したが、他社がそれを下回る価格でセールを行い、行き詰まった。いつでも安く買えるほうが顧客のためになる、そう思ったが、時期を限ってもセールと銘打ったほうが、お得感を持つ顧客がいることもわかった。
店のアイテム数を減らしたことも失敗だった。売れ筋に絞り込んで大量に売れば、交渉力もアップして安く仕入れられる。顧客にとっても店にとっても両得という理屈だったが、現実は売上が落ちた。
「カレーのルーの種類が多過ぎるといってアイテムを削ってしまうと、いくつかのルーを混ぜ合わせてご家庭独自の味を作っているお客さまにとって、魅力のない売場になってしまうのです」(清川氏)
やはり、理論よりも、消費者の感覚、主婦の感覚が大事なのだ。うまくいかないことはすぐに改善し、次の手を打ち続けた。そのかいあって店や部門によっては半年ほどで成果が出始め、明らかに数字が上向き始めた。
2020年現在、かつて赤字だった店のほとんどが黒字に転換した。銀行からの借入金はMBOの時点で454億円だったが、その返済も予定より早く進み、2020年春の時点で150億円まで縮小することができた。6年半で約300億円を返済した計算だ。
タイヨーの経営の急速な回復にどこよりも驚いたのが銀行だった。返済には少なくとも10年はかかると思っていたからだ。多くの関係者が目を見張った。
「『タイヨーの奇跡だ』と言ってくださる方がいます。『きれいだ』『よどみがない』とのお言葉もいただきます。会社を立て直して地域に貢献したことを、『MBOの理想形だ』と評価してくださる方も」(清川氏)
とはいえ、清川氏が受けていた重圧は尋常なものではなかった。MBO実施から1年後の前後3カ月は、入院するか、点滴を打ちながら仕事を続ける生活だったという。資金調達のため全財産を担保に入れたストレスだった。