ミライが
売れなかった理由

 市販FCEVのさきがけたる第1世代のミライが売れなかった理由だが、クルマに水素を補給するインフラが未整備で、保有、使用に耐える地域やユーザーが限られていたということが取り沙汰されることが多いが、それ以上にネックなのは走行コストの高さ。

 水素ステーションでの水素の供給価格は今日、1kgあたり1200円前後。FCEVの平均燃費が水素1kgあたり120kmとして、1km走るのに10円分の水素を必要とする。

 これはいくら何でも競争力がない。普通の「クラウンハイブリッド」や廃版になったレクサス「GSハイブリッド」に乗ったほうが全然安くつくというものである。燃費が良く、燃料価格の安いディーゼル車相手だとなお勝負にならない。筆者が過去に乗った例で言うと、フォルクスワーゲンのミッドサイズセダン「パサート」が1kmあたり5円、ボルボのラージサイズステーションワゴン「V90」が6円ほどであった。

 これでミライがエンジン車をぶっちぎるくらいの性能があればまだ言い訳のしようもあった。が、第1世代ミライにはそれもなかった。最高出力は113kW(154ps)と、大衆車クラスのBEVレベル。1850kgという重いウェイトが足を引っ張るのか、最高出力が同じくらいの日産自動車のBEV「リーフ」のバッテリー容量40kWh版に後れを取り、リーフの62kWhロングレンジ版には完全に置いて行かれる。エンジン車でも1kmあたり10円も出して乗るのであれば、もっとマシな選択があるというものである。

 FCEVに限らず、新世代のエコカーはBEVだろうとPHEVだろうと、普通のクルマに比べて高い。ユーザーにそれをわざわざ選ばせるためには、何らかのわかりやすいベネフィットが必要だ。たとえばプリウスの第2世代モデルには、Cセグメントコンパクトクラスとして当時の常識を覆す燃費性能を持っていた。BEVのテスラ「モデル3」はエンジン車だと1000万円オーバーでなければ手に入れられない加速性能と、電力1kWhあたり7~8kmほど走れるという、エコとパフォーマンスの二律背反の克服があった。

 これまでのFCEVには何のベネフィットがあったのか。それは現状の水素製造プロセスではCO2排出量低減に何の貢献もしないが将来技術を育てることにはつながるかもしれなという貢献感、エコを考えているというポーズを示すこと、そして電動車特有の低振動・低騒音くらいのものであろう。

 ZEV(排出ガスゼロ車)を一定数売らなければならないという規制をクリアするためにリース料が驚異的に安く設定されていたアメリカのカリフォルニアでさえ、そのために不便を押してFCEVを買おうというユーザーの数はごく少数だった。日本をはじめ、他地域で官公庁や一部企業以外への販売がゼロ同然で終わったのは当たり前の話である。