鬼ヶ島から財宝を持ち帰った桃太郎を待っていたのは、毎年の確定申告でした。果たしてこの財宝はどう申告したらいいのか、鬼退治に使った「きびだんご」は経費として認められるのか――。
そんな疑問にこたえる新著『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか?』では、知らないと損をする、でも説明されてもわかりにくい。そんな税金の世界を、誰もが知ってる昔ばなしでシミュレーション。ストーリー仕立てで楽しみながら、税金の知識が身につくと早速評判になっています。
連載第1回目では、著者のお二人にこの面白い企画が生まれた理由をお聞きしました。(構成・編集部 イラスト・佐々木一澄)

「桃太郎も確定申告するのかな?」そんな疑問からはじまった企画でした。

わらしべ長者の物々交換って課税されるの?

「桃太郎も確定申告するのかな?」そんな疑問からはじまった企画でした。髙橋創(たかはし・はじめ)
税理士
1974年東京都生まれ。東京都立大学卒業後、専門学校講師、会計事務所勤務を経て、高橋創税理士事務所を新宿二丁目に開設。開業したものの顧客を増やしていく為の営業方針が定まらず苦戦する中、酒好きが高じたためかドリンクをオーダーすることで税理士に相談をできるイベント「確定申告酒場」を新宿ゴールデン街のバー「無銘喫茶」で開催。そこで、相談者の素朴な疑問に触れるうちに「税金のことを楽しく伝える」ことに喜びを感じ、雑誌のコラム、YouTube、プロレス興行での「確定申告マッチ」などであまり堅苦しくない税金ネタを発信するようになる。著書に『フリーランスの節税と申告 経費キャラ図鑑』(中央経済社)、『図解 いちばん親切な税金の本20-21年版』(ナツメ社)などがある。

――出版おめでとうございます。この面白い企画はどうやって生まれたんですか?

井上マサキ(以下、井上)「桃太郎も確定申告をしているのか?」と思ったのは、2019年の2月のことでした。自分はフリーランスのライターで、確定申告の作業も自分でやっていたんです。ちまちまと帳簿をつけていくなかで、毎年これやるけど面倒だよな……桃太郎だってやったのかこれ?と(笑)

桃太郎は鬼ヶ島から金銀財宝を持って帰ったけど、あれは「収入」なんだから、確定申告をしないといけないはず。でも、あれはもともと鬼が村から奪った財宝だから、そもそも収入じゃないのでは……? とか考えていたら、面白くなってきたんですね。

昔話を今の税制で考えると、わからないことがいっぱいある。きびだんごは経費で落ちるのか?とか、わらしべ長者の物々交換って課税されるの?とか、笠地蔵からもらった品は贈与税の対象なんじゃないかとか。これをちゃんと税理士の人に聞けたら面白いなと思って、ライターとして参加しているWebメディア「デイリーポータルZ」に企画を出したんです。

編集部も面白がってくれて、すぐにOKは出ました。でも2月だったので、まさに税理士さんが忙しい時期なんじゃないか、そんなときにこんな変なこと聞いたら怒られるんじゃないかと思って、ちょっと今はやめようと……(笑)

結局、企画が動き始めたのはその年の10月。編集部含め、税理士のあてが全然なかったので、デイリーポータルZのファンコミュニティ「デイリーポータルZをはげます会」で、読者の方に聞いたんです。「こんな企画をやろうと思うんですが、税理士の知り合いはいませんか」と。そこで紹介してもらったのが高橋さんでした。

――そうだったんですね。高橋さんは、はじめに企画を聞かれた時は、どう思われましたか?

高橋創(以下、高橋) 最初に話を伺ったときは、「面白いこと考える人いるなぁ」と感心するとともに、「これは真剣に向き合ったら面白いかもしれない」という税理士としての好奇心みたいなものをかき立てられました。即答で引き受けた記憶があります。

――ウェブ記事の反響はいかがでしたか?

井上 こちらのウェブ記事はSNSで結構拡散されて「普通に面白いし勉強なる」と良い反応が多かったですね。確定申告の時期に改めて読まれたりしました。

取材はゴールデン街の無銘喫茶でやったので、最初こんなところに税理士さんが…?とビビりました。

高橋 普段は税金のことに興味がなさそうな友人から「読んだよ」という連絡をもらうこともありました。税金ネタはなかなか興味を持ってもらえることはないので、ちょっと以外でしたね。
税理士さんからの反応はあんまりなかったような…(笑)

井上 なるほど…

――それで、本にしてしまおうと、いうことになったんですね!

井上 高橋さんから「本にしましょう」と声をかけていただいたんですよね。

高橋 これだけ税金に興味がない方にも反応してもらえるネタを単発で終わらせてしまうのはもったいないと思いまして。

井上 web記事は「鶴の恩返し」「桃太郎」「わらしべ長者」の3つだったので、まずネタを増やさないといけなかったんですよね。

10章くらいは欲しいから、あと7つ。浦島太郎とかかぐや姫は割と早くに決まったものの、他は結構悩んだような。

高橋 考えてみたら何十年も昔話なんて読んでないですしね。。

井上 一覧を見ながら悩んだりしましたね。あと世の中がコロナ禍になったので、打ち合わせは全部オンラインでしたし。

「固定資産税がかかる昔話ないかなー」とか探してました。税金の種類も散らさないといけなかったので。

――なるほど。まだ読まれていない読者のためにどんなネタが入っているのか、少し紹介していただいてもいいですか?

井上 工夫したのは、同じ税金が関わる複数の昔話を1本にまとめたところでしょうか。舌切り雀と笠地蔵とか。

舌切り雀と笠地蔵はどちらも物をもらう話なので「贈与税」が関わってます。舌切り雀の小さなつづらは大判小判がざっくざくなので贈与税がかかりそう、じゃぁガラクタばかりの大きなつづらには贈与税がかかるのか?を考えています。

「浦島太郎」では、竜宮城から帰ってきた浦島太郎が、自宅がなくなっていることに気付くところから始まります。竜宮城にいるあいだ固定資産税を滞納していた浦島太郎、税金を払わないとなにが起こるのか…を解説しています。

――なるほど。税金のこと、苦手な人も楽しく読めそうですね。

高橋 登場人物が税金に無知、という前提ですので、「こんな時にも税金がかかるの??」という驚きを共有してもらえるとうれしいですね。

読んだからといって確定申告作業が出来るようになったり、節税に詳しくなったりということはありませんが、その前の第一歩として税金に興味を持ってもらえるとありがたいです。

――確かに、色々驚きもあって、楽しみながら、税金の大枠を学んでいけるというのは、いいなと思いました。

高橋 本筋とは違いますが、物語を通じて税理士というものについても親しみを持ってもらえるとよいなと思っています。

お堅いイメージがある職業ではありますが、案外適当なところもあったりアシスタントに振り回されたりと威厳らしきものが見当たらない姿には、私はとても親近感を持ちました。

こんなアシスタントいたらいやだなぁとは思いましたが。