『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』が、発売2ヵ月半で10万部を突破。分厚い788ページ、価格は税込3000円超、著者は正体を明かしていない「読書猿」……発売直後は多くの書店で完売が続出するという、異例づくしのヒットとなった。なぜ、本書はこれほど多くの人をひきつけているのか。この本を推してくれたキーパーソンへのインタビューで、その裏側に迫る。
今回は、発売前からフェアを企画し、10万部への初速を牽引した青山ブックセンターの本田翔也さんに話を聞いた。青山ブックセンターでの購入はこちら。(構成/川村望[あひる社])
客層は「わざわざ本を買いに来る人」
――青山ブックセンター本店の選書フェアは、この本が「売れる前」の刊行直後から行われていました。税込3000円以上、788ページの本はかなり珍しいと思うのですが、フェアが成功する=本が売れる勝算はあったのでしょうか? 企画の経緯を教えてください。
本田翔也さん(以下、本田) 何よりも、「読書猿さんならまた良書を出してくれそうだ」という、著者への信頼がありました。既刊の『アイデア大全』と『問題解決大全』は当店のロングセラーでしたし、新刊のテーマが「独学」だと知ったときは、「そう来たか!」と。これまで読書猿さんの著作に親しんでいる方だけでなく、より広い層に手にとってもらえるテーマなのではないかと感じました。
フェアを企画したのは刊行前だったので本は手元にありませんでしたが、読書猿さんのことですから、内容は徹底的に掘り下げられたものとなるに違いない。そのうえ、推薦者の山口周さんも当店では人気があり、辞書を模した装丁もいい。これはフェアを企画しない手はないだろうと。それくらい勝算はありましたね。
――青山ブックセンターさんでは、フェアの企画はどのように決まるのですか?
本田 当店の一番の強みは、「各ジャンル担当者による、独自の棚づくり」です。自分が担当しているビジネス書ジャンルでは、メインの取り組みとして、フェアを定期的に行っています。フェアの内容は、今回の「読書猿選書フェア」のように、著者を起点にしたものも多いですね。新刊の中から「これはいける!」というものを選んで企画しています。
当店のお客様は、クリエイターの方や本好きの方が中心で、滞在時間が長く、購入率、購入金額も比較的高いんです。つまり「なんとなく書店に来た」ではなく「(わざわざ)青山ブックセンターに本を買いに行こう」というお客様が多いんです。
フェアから「想定外の出会い」をしてほしい
本田 そういう方々に向けて、「この作家さんがおすすめする本は何だろう」とか「この本の裏にはどんなエピソードがあるんだろう」というところまで興味を持っていただき、本を手にとっていただければと考えています。
ですから今回のような選書フェアは、単に関連書を並べるだけでなく、著者の「ルーツ」が見えるようなものにしたいという意図があります。ありがたいことに著者さんからは選書本1冊1冊コメントをいただいています。
僕自身もそうなのですが、著者が何に影響を受けてその本を書いたのかって、読む側は気になると思っていて。
好きな著者の根幹にふれることで、読者の側も、自分の興味が思ってもみなかったような方向に転がる体験をしてもらえたら良いなと思います。またジャンルを横断して本を売れるチャンスなので、やりがいも大きいです。
「関連書籍も続々品切れ」の衝撃
――反響はいかがですか。
本田 正直、予想以上の売上で驚いています。『独学大全』はもちろんですが、選書本の動きも大変よく、品切れになって追加したものが何冊もあります。選書本の中で一番売れているのは『リサーチの技法』(ソシム)です。500ページ近い分厚い本ですが、フェアで展開することでこんなによく売れるんだと驚いています。
普段当店ではいわゆる『勉強法』や『読書術』といった書籍は、比較的売上はあまり高くはないんです。そういう意味で、『独学大全』は異色の存在ですね。
普段ビジネス書の棚にいらっしゃるお客様だけではなく、他のジャンルを購入される方が店内を回り、「面白そうだ」と手にとってくださったのではないかと思います。
――『独学大全』の内容について、本田さんご自身が「読者として参考になった」「面白かった」箇所はありますか?
本田 僕が「流石だなあ」と思ったのは「技法19 検索語みがき」ですね。独学の技法ですから、当然本の読み方とかは載っているだろうと予想していたんですけど、インターネットの使い方までしっかりフォローしてくれている! このきめ細やかさ、網羅性は読書猿さんならではだと思いました。
僕の場合は何か気になったことを調べるとき、いつも「一般的な検索だといい情報が出てこないなあ」と悩んでいたんです。だから、最初に「コトバンク」という辞書で調べてから検索エンジンにかけるというやり方は、とても参考になりました。
次はどんな形で僕らを驚かせてくれるのか。読書猿さんの新刊を楽しみにしています。