2021年春に入社する新入社員の研修について、具体的な検討を始める季節になった。しかし、緊急事態宣言が発出されるほど新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な今、今年の新入社員研修もリモートでの実施が現実的だろう。では、コロナ禍2年目の今年こそ、スムーズに新入社員研修を行うには、どのような工夫を凝らすべきか。人材育成のラーニング環境設計などを行う「インストラクショナルデザイン」の日本における第一人者であり、人材・組織開発に関する会員制組織ATD(米国人材開発機構)ジャパン理事の中原孝子氏が解説する。
21年卒の新入社員も
リモート研修やむなしの状況
昨年はコロナ禍で、予定していた新入社員研修を急遽オンラインに代えたり、実施自体を諦めたりした企業も多かったのではないでしょうか。当時は「来年になれば元に戻るだろう」という予想の下、とりあえず「今年(2020年)に対処できれば…」という考えで動いていたかもしれません。
しかし、この1年で、私たちを取り巻く環境は大きく変わりました。オンライン活用は、単純にコロナ禍に対する一時的なものではなく、ニューノーマル、もしくはデジタル社会の新しい働き方とも合致して加速しており、人事部門には適切な対応が求められています。そこで今回はそんな状況下での、2021年の新入社員研修の位置づけと有効なデザインを考えてみたいと思います。
新入社員の活躍に不可欠な
オンボーディング(組織の一員に迎え入れる)活動
皆さんが仕事に就いた最初の日のことを思い出してみてください。キャリアの新たな一歩を踏み出すことへの期待感、会社や職場にどう貢献し、世の中に肯定的な変化をもたらせるだろうかという志と不安が入り混じっていたのではないかと思います。
その際、これからどのような環境で仕事をするのか(オフィスやワークスペース、ツールやテクノロジー)も重要な関心事だったことでしょう。職場環境に関するさまざまなことを皆さんに教えてくれたのは、誰でしたか。会社の製品やサービス、ビジネスモデルについては、どのように学びましたか。組織の歴史や指針となるミッションや価値観の共有は、どのように行われたでしょうか。そして、自分が働く職場のチームメンバーとはどのように出会い、自分に対する役割や期待はどのように伝えられたでしょうか。
一見すると、これらは些末なことに思えるかもしれません。しかし、組織が提供する最初のオンボーディング(組織の一員として迎え入れる)活動は新入社員の周囲に対する調子の合わせ方を決め、彼らが組織でどのような役割を担って結果を残せるかに対して、決定的な影響を与える可能性があると言われています。
オンボーディングプログラムが効果的であるためには、内容はもとより、その構成や構造が職場の文化や従業員に対する役割期待とも連携し、柔軟である必要があります。特にジョブ型人事制度への移行や職場環境のデジタル化が進んでいる今は、なおさらです。
皆さんの組織における新入社員プログラムは、最近ではいつ、その内容や構造の見直しが行われたでしょうか。人事が企画する新入社員研修と職場でのプログラムが別々に企画されており、彼らの将来の基盤を築く観点からは整合性が取れていない状態ではないでしょうか。