「研修は、集合して行わなければ意味がない」「すべてオンライン研修に置き換えるべきだ」。コロナ禍では、人事担当者などを中心に、こうした「集合研修派」と「オンライン研修派」の不毛な争いも生まれた。果たして、すべての研修は「集合」して行うことに意味があるのか。それとも「オンライン」にすべて置き換えられるのか。
人材育成のラーニング環境設計などを行う「インストラクショナルデザイン」の日本における第一人者であり、人材・組織開発に関する会員制組織ATD(米国人材開発機構)ジャパン理事の中原孝子氏が、来年度の研修プログラムを考え始めた人事担当者などに知ってほしい、集合研修にすべきもの、オンライン研修で行えるものを判断する基準を解説する。
どうすればオンライン研修を
集合研修に近づけられるか、と悩んでいないか
今年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、4月から行われる予定だった新入社員研修の内容変更に追われた企業も多かったのではないでしょうか。集合できないため、急きょ研修を取りやめた、Zoomなどのビデオ会議システムを使って集合研修をオンラインにどうにか「置き換えた」などの対応をしたケースをよく耳にしました。デジタルで業務を行う習慣があまり多くはなかった日本企業の人事部門の方々にとっては、暗中模索の状態で始まった新年度だったかもしれません。
現在は、長引く新型コロナの影響下で、いわば強制的に始めたオンライン研修の経験を踏まえて、来年度に向けた新入社員研修や管理職研修などをどう運営していくか、検討され始めている頃ではないかと思います。
「今年オンラインで研修を行ったから、来年もそのままオンライン研修で」となんのためらいもなく判断できる人事担当者はきっと多くはないはずです。
最近、私が開催した「バーチャルクラスの設計」などをテーマにしたオンライン研修では、「(コロナ禍で)選択肢がなかったので、集合研修の内容をほぼそのままビデオ会議システムに移行させて、数週間(数カ月の人も)におよぶ研修を実施した。けれども、本当に集合研修の質をバーチャル環境でも保てたのだろうか、と思い始めた」という意見が挙がりました。
集合研修が自由にできなくなった今、どうすればオンライン研修をこれまでの集合研修に近づけられるのか。これこそ、社員研修プログラムを担っている多くの人事担当者が最も知りたいことかもしれません。
しかし、その前にまず考えていただきたいのが、これまでの集合研修で保っていた(保とうとしていた)「質」についてです。
これまでの集合研修では、会社が求める質を本当に保てていたのでしょうか? 集合研修の方が、本当にオンラインで行う研修よりも優れているのでしょうか? 何が集合研修だからこそできることなのでしょうか?
テクノロジーの活用によって研修方法の選択肢が増えたことを踏まえて、何であれば集合研修でなければできないことなのか、オンライン研修で行えるものはないか、この機会に考えてみましょう。