「一番にならなくてはならない」という思い込みを捨てる

 このテーマに関して私が一番気に入っている逸話を紹介しよう。それは、1984年のロサンゼルス五輪の板飛び込み競技で金メダルを獲得したシルヴィー・ベルニエ(カナダ)の経験だ。シルヴィーがIMHL(国際医療リーダーシップ修士課程)を受講したときに知り合った私は、彼女に尋ねた。オリンピックで金メダルを獲得するようなスポーツ選手は、ほかの人たちとどこが違うのか。

 シルヴィーが語ったストーリーは、きわめて印象的だった。彼女は、ほかの選手のことではなく、自分自身の経験について話した。20歳で迎えたロサンゼルス五輪の競技当日、決勝への進出を決めた彼女は、あらゆる人や物事を意識の外に追いやった。コーチや親、ジャーナリストもすべて寄せつけず、新聞やラジオやテレビも遠ざけた。競技中、その時点での順位や成績を耳に入れたくなかったのだ。

 だから、最後の試技を終えた時点で、金メダルを獲得できたのか、それとも何も獲れなかったのかわからなかった。だからこそ、優勝できたのかもしれない。彼女がベスト(一番)になりたいと思っていたことは間違いない。金メダルを獲れるのは一人だけだからだ。しかし、その目標を達成するために選んだ方法は、自分のベスト(最善)を尽くすこと、言い換えれば自分自身と競うことだったのである。

 高い水準を目指す姿勢を捨てるのではなく、一番にならなくてはならないという思い込みのほうを捨てるべきだ。そうすれば、自分にとって最善の結果を得ることができるのだ。

(※この原稿は書籍『これからのマネジャーが大切にすべきこと』の「41.ベストよりグッドを目指せ」の一部を編集して掲載しています)