「トッププレイヤー」が「マネジャー」になったときにぶつかる壁

金沢 話は変わるんですが、実は、去年10月にプルデンシャル生命を退職して、AthReebo(アスリーボ)株式会社という会社を設立したんです。アスリートに新たな価値と収益を生み出す産業を作ろうという会社なんですが、社長として「結果」を出すという新しいチャレンジに戸惑いも覚えています。

 それで、「識学」を学んでいるんですが、プルデンシャル時代は「トッププレイヤー」としてやってきた自負があるからこそ、「識学」を学ぶ中では耳の痛い話がたくさん出てきます。

「あ、この『悪い事例』として出てくるマネジメント、おれがやっていることそのものや」みたいな(笑)。プレイヤー時代は、自分で自分のケツを叩けばそれでよかったのが、マネジメントとなるとそうはいかない。自分が「本気になる」こと以上に、メンバーを「本気にさせる」のは難しいことだと感じます。

安藤 金沢さんのようなトッププレイヤーって、ご自分で「やらない言い訳」をとことん潰し続けてきたからトッププレイヤーになれたわけじゃないですか。そのトッププレイヤーがマネージャーをやると、部下の「言い訳」に気づきすぎてしまうんですよね。そこが難しい。

金沢 わかる、めっちゃわかります……。

安藤 もちろん、部下の言い訳に敏感だからこそ、いいマネジャーになれるともいえます。ただ、言い訳に気づきすぎる分、指導が細かくなりすぎてしまうという欠点もあるんです。

金沢 そうなんですよね。自分のプレイヤー時代にも、やりたくないことや逃げたいことはたくさんあって、でも自分なりにそれらに向き合って、必死に乗り越えてきた。その中で知らず知らずのうちに「これは乗り越えて当たり前」の基準も高くなっているから、メンバーが安易に妥協しているのを見ると「もうちょっと頑張れよ」「もっとできるだろ」ともどかしく思ってしまうんですよね。

 でも「識学」を学び、メンバー個々の意気込みに委ねるのではなく、組織全体が「結果を出す」ことにフォーカスできるよう仕組みを整えることができれば、「よい結果」の再現率も高まるなと感じています。メンバーが全員、僕になる必要はないわけですからね。「ぼくと同じやり方」を求めてはいけないなと反省しているところです。

安藤 まさに「トッププレイヤー」だったからこその苦悩ですね。僕なんかは金沢さんほど、ひとりのプレイヤーとして自分を追い込み、突き詰めた経験がありませんから、かえって今、やりやすいですよ(笑)。メンバーを見て、むしろ「俺よりすごいな」と思うことのほうが圧倒的に多い。

 金沢さんの場合は、努力してのし上がったトッププレイヤーだからこそ、「見えすぎてしまう」ところをどうコントロールしていくかが、現状の課題なんでしょうね。

金沢 ひとつ明確に反省しているのが、昨年6~7月あたりのことなんです。月次売上目標達成に向けてスタッフ一丸となって頑張っていたのですが、達成できるかどうかギリギリの状態が続いていて、月末の最終日、「目標まであと30万円」という状況だったんですね。

 僕としては「頑張ったらいけるやん」という感覚だったんですけど、その日の状況がおもわしくなかったのでガッカリして、「みんな、数字を達成する気があるのか」と一喝して、「もういいわ、おれがやったるわ」と、僕がそこから1日で30数万円の売上つくってしまったんです。自分としては「どうだ!」といい気になっていたんですけど……これ、だいぶ間違いだったんでしょうね……ということに、「識学」を学びながら気づきつつあります。

“デキる社員”が管理職になったら必ずやってしまう「失敗ベスト1」金沢景敏(かなざわ・あきとし)
元プルデンシャル生命保険ライフプランナー AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
入社1年目にして、プルデンシャル生命保険の国内営業社員約3200人中の1位(個人保険部門)になったのみならず、日本の生命保険募集人登録者、約120万人の中で毎年60人前後しか認定されない「Top of the Table(TOT)」に3年目で到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な実績を残した。
1979年大阪府出身。東大寺学園高校では野球部に所属し、卒業後は浪人生活を経て、早稲田大学理工学部に入学。実家が営んでいた事業の倒産を機に、学費の負担を減らすため早稲田大学を中退し、京都大学への再受験を決意。2ヵ月の猛烈な受験勉強を経て京都大学工学部に再入学。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍した。
大学卒業後、2005年にTBS入社。スポーツ番組のディレクターや編成などを担当したが、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じて、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命保険に転職した。当初は、アポを入れようとしても拒否されたり、軽んじられるなどの“洗礼”を受けたほか、知人に無理やり売りつけようとして、人間関係を傷つけてしまうなどの苦渋も味わう。思うように成績を上げられず苦戦を強いられるなか、一冊の本との出会いから、「売ろうとするから、売れない」ことに気づき、営業スタイルを一変させる。
そして、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRT(Million Dollar Round Table)の6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、自ら営業をすることなく「あなたから買いたい」と言われる営業スタイルを確立し、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な業績をあげた。
2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReebo(アスリーボ)株式会社を起業した。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。

安藤 いちばんアカンやつです(笑)。スタッフから失敗の経験を奪ったわけですからね。

金沢 ですよね……。自分の中では「どうだ、すごいだろう! みんなおれについてこい!」という気分だったのですが、それは組織としてはまったく意味のないことだった。いや、むしろマイナス効果だった。

「識学」を学んでいなければこの間違いをずーっと犯し続けていたかもしれないと考えると、恐ろしいですね。いつも「最後はおれが頑張ればええやん」と考えていたので……。でもそれでは、個人商店は回せても、社会に対してインパクトのある大きな仕事は回せないんですよね。

安藤 人間の成長はPDCA。たとえ失敗しても、評価・改善してまた新たなPDCAを回すことで人間は成長します。そして、個人でこなせるPDCAの数は限られていますが、メンバーが複数いれば、その分だけPDCAの数は増えます。

 弊社には今、120人のメンバーがいますから、120人分のPDCAが毎日回り続ける。すると、僕ひとりでは、とてもできないことがたくさんできるようになるわけです。PDCAが120通りあるから、僕が思いつかないイノベーションが発生する確率も120倍になる。だから、たったひとつの失敗の経験も、決して奪ってはいけないんです。

金沢 わかっているつもりなんですけど……(苦笑)。つい、プレイヤーとしての思いが出てきてしまう。「マネージャーとして結果を出す」ためには、自分の「思考法」を180度変えていかないといけないと思っています。まだまだこれからです。

第2回につづく)

【好評連載】
第1回 “デキる社員”が管理職になったら必ずやってしまう「失敗ベスト1」

第2回 なぜ、ものすごい結果を出す人に「ポジティブな人」は1人もいないのか?

第3回 「競争」で“伸びる人”と“潰れる人”は、どこが決定的に違うのか?