「競争心」を「目標」に変換する

金沢 ところで、安藤さんは『リーダーの仮面』の中で、「競争状況をいかにうまくつくってあげるかが管理職の重要なところだ」とおっしゃっていますね。ぼくもこの考え方に共感します。

安藤 競争がなぜ必要か。それは、競争をすると「言い訳」ができなくなるからです。組織をつくるうえで、メンバーの言い訳を消すのに最も手っ取り早いのが競争なんです。金沢さんがとてつもない成果を挙げているのに、自分が成果を出せないのをプルデンシャルの仕組みのせいにはできませんからね。

 よく「競争ばかりの会社で疲れる」というようなことを言う人がいますが、それははっきり言って、世の中の仕組みを理解していないとしか言いようがありません。だって、世の中は常に競争じゃないですか?。それが現実です。恋愛もそう。仕事もそう。すべて比較の中で成立しています。その「事実」を直視しないと、何も始まりません。

金沢 僕はもともと負けず嫌いなので、競争は大好きです。だけど、かといって競争の中で「相手を痛めつけてやろう」という気になるわけじゃない。それって、めちゃカッコ悪いですよね? それよりも、競争に勝つためには、あくまでも「サボりたい自分との戦いに勝たなければならない」と考えるほうです。それがカッコいいと思うんです。

「競争」で“伸びる人”と“潰れる人”は、<br />どこが決定的に違うのか?金沢景敏(かなざわ・あきとし)
元プルデンシャル生命保険ライフプランナー AthReebo(アスリーボ)株式会社 代表取締役
入社1年目にして、プルデンシャル生命保険の国内営業社員約3200人中の1位(個人保険部門)になったのみならず、日本の生命保険募集人登録者、約120万人の中で毎年60人前後しか認定されない「Top of the Table(TOT)」に3年目で到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な実績を残した。
1979年大阪府出身。東大寺学園高校では野球部に所属し、卒業後は浪人生活を経て、早稲田大学理工学部に入学。実家が営んでいた事業の倒産を機に、学費の負担を減らすため早稲田大学を中退し、京都大学への再受験を決意。2ヵ月の猛烈な受験勉強を経て京都大学工学部に再入学。京都大学ではアメリカンフットボール部で活躍した。
大学卒業後、2005年にTBS入社。スポーツ番組のディレクターや編成などを担当したが、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じて、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命保険に転職した。当初は、アポを入れようとしても拒否されたり、軽んじられるなどの“洗礼”を受けたほか、知人に無理やり売りつけようとして、人間関係を傷つけてしまうなどの苦渋も味わう。思うように成績を上げられず苦戦を強いられるなか、一冊の本との出会いから、「売ろうとするから、売れない」ことに気づき、営業スタイルを一変させる。
そして、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRT(Million Dollar Round Table)の6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、自ら営業をすることなく「あなたから買いたい」と言われる営業スタイルを確立し、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な業績をあげた。
2020年10月、プルデンシャル生命保険を退職。人生トータルでアスリートの生涯価値を最大化し、新たな価値と収益を創出するAthReebo(アスリーボ)株式会社を起業した。著書に『超★営業思考』(ダイヤモンド社)。

安藤 それはとても重要なところです。競争によって起きる弊害として、競争相手の足を引っ張ったり、陥れたりするような人が出てくることがあります。現実にいるんです、そういう人が。だから組織運営上は、誰かの足を引っ張ったり、陥れたりするようなことが決してできない仕組みにすることが必要になります。

金沢 ぼく自身、「クソッ、この野郎。負けるか」という感情をエネルギーに変えるタイプですが、その感情の矛先が「競争相手」に向かうか「自分」に向かうかで、その後の行動が大きく変わるんですよね。「競争相手」に向かってしまえば刃となり、「自分」に向かえばエネルギーとなる。

 数年前、あるカヌー選手が、後輩のオリンピック出場を阻止しようと、後輩の飲み物にこっそり禁止薬物を混ぜたことが問題になりました。決してあってはならない、スポーツに携わる人間としてあり得ないことです。しかし、「後輩に負けたくない」という気持ちはわかる。その「競争心」という感情自体は、ぼくは否定する気になれないんです。

 彼は「クソッ、この野郎。負けるか」という感情を後輩に向けてしまったために、過ちを犯した。でももしも彼が、「クソッ、この野郎。負けるか」という感情を自分に向けていたとしたら、トレーニングにも熱が入り、本当に自分がオリンピックに選ばれていたかもしれません。私はそう考えます。

安藤 そうですね。競争心がもっているエネルギーを、どこに向けるかが重要なんでしょうね。

 それで、競争心をそのまま競争相手にぶつけて陥れるような行為は論外ですが、一方で「競争から逃げてもいいんだよ」という昨今の風潮も、それはそれで危険だと感じます。

 常に人は比較され、常に人は競争している。その事実から目を背けていては、「優れた結果」は出ません。やはり、競い合うなかで「優れた結果」は生まれるんです。「世の中は競争である」という大前提の事実から逃げるのは、仕事から逃げるのと同じことではないでしょうか?

金沢 そうですね。「競争から逃げてもいいんだよ」という人の気持ちもわかる気はするんですが、僕の感覚からすると、「競争から逃げる」というのは「自分を高める」ことを放棄することのように感じるんです。だから、僕は「競争」に積極的に向き合っていくのが、よい人生を送ることに繋がると思っています。

 ただし、繰り返しますが、競争に勝つために、ライバルばかりを意識しすぎるのも違うと思います。自分と向き合うんです。

 僕はプルデンシャルに入社して、「日本一の営業」を本気で目指しました。でもそれは決して、「現状の社内第1位にいる人間を蹴落とす行為」ではなかった。過去の売上データを徹底的に調べ、「このくらいの数のお客様にアプローチしたら、だいたいこのくらいの結果が出る」という数字をはじきだして、ライバルがどうであろうと、とにかくその数字を日々達成することだけを考えたんです。そして、その数字をやり切ったうえで、ライバルがそれを超えてくるようなら、それはもう仕方がないという感覚でした。

安藤 相手を意識して、それを危機感に変える。言い訳をなくしつつ、そこからどう行動するかは「自分のやるべき行動」として設定する。常に隣を見ていてはいけない。でも隣を意識しなければいけない。金沢さんがおっしゃったのはまさに、競争が正しく働いている環境だといえます。

 ただ、普通の人はなかなか、「他者への競争心」を「自分の目標」に変換できないんですよね。競争に打ち勝つための基準を設定できなくて、焦りだけが生まれる。日々、何をしていいかがわからなくなり、迷う。すると、足を引っ張ったり、陥れたりといった、生産的でない行動に走ってしまう人が出てくるんです。

 そこで、管理職の出番です。「勝つためにはこれをやり切ろう」と、「他者への競争心」を「自分の目標」に変換するサポートをしてあげる。これが管理職の仕事です。

金沢 「評価」と「競争」。いざ自分が組織を率いようとなると、本当に難しい問題なんですよね、ここは。

安藤 確かに難しい。でも仕組みづくりがうまくなる方法がひとつだけあります。「仕組みをつくり続ける」ことです。こんな仕組みを設定して、うまくいかなかった。これはもっと違う設定がいいなと試行錯誤を繰り返していく。要するに、評価の仕組みのPDCAをコツコツと回し続けるんです。

 例えば、さきほど、金沢さんは評価制度に悩んでいた。それでいいんです。悩んで悩み抜いて、まずは現時点でベストだと思う仕組みを「設定」してみる。そして、実際に動かしてみて、何か違和感があれば変えればいい。それをひたすら繰り返す。すると必ず、最適解が見つかります。

金沢 目的を果たすためには、朝令暮改は全然ありなんですよね。意固地にならずにうまくいくまでやり方を変えてみる柔軟さは大切ですね。がんばります!

(おわり)

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第1回 “デキる社員”が管理職になったら必ずやってしまう「失敗ベスト1」

第2回 なぜ、ものすごい結果を出す人に「ポジティブな人」は1人もいないのか?

第3回 「競争」で“伸びる人”と“潰れる人”は、どこが決定的に違うのか?