「ラーメンのおいしさを知ったアメリカ人がさめたラーメンに戻ることはないでしょう。また今は辛いラーメンが人気です。マー油というニンニク風味の黒い油を入れているんですが、それがすごくウケています。濃い味が好まれているのです」
韓国の辛ラーメンがトップシェアというのも、そのあたりの嗜好(しこう)の違いなのだろう。
もう一つの変化はニッチ市場向け商品のニーズの増加だ。
「たとえば健康系ラーメンの注文が増えています。アニマルフリーのヴィーガンラーメンは、以前はおいしくありませんでしたが、普通のラーメンとほとんどわからないところまで来ています」
こうした海外での需要で新しいラーメンが生まれ、各国でローカライズされたさまざまなラーメンが日本に逆輸入される。それがラーメンの未来か。
冒頭の来々軒の味について、岩岡館長に「今のラーメンと同じ味」という話をした際、面白いことを教えてくれた。
「でも当時は脂っぽくて食べられないとか臭いとか結構言う人がいたらしいんですよ」
100年前のラーメンと現在のラーメンは奇しくも同じ味だったが、その評価は違った。明治の人たちにはあの淡い味のラーメンが脂っぽくて臭かったのだ。それはすぐに「おいしい」にとって代わったわけだけれども(当時の来々軒は行列が途切れないほど大繁盛した)、同じ味でも社会や文化によって受け取り方が変わるのだ。
100年後のラーメンは、もしかしたら再び来々軒の味に回帰しているかもしれない。しかしその味を100年後の私たちがどう感じるのかはまた別の話である。