誰でも、いつでも動ける時代になった

作家・水野敬也「苦手が分かれば他力を頼れる隙間が生まれる」Photo/曽川拓哉

質問者3:自分らしさを信じてもらえる人と出会うには、今の場所で待ち続けるのか、ほかの場所に動くのか、どちらがいいでしょうか?

川原:動くほうをおすすめします。理由は、そのほうが早いから。他人の気持ちが変わるのを待つのって、結構気の遠くなる話ですよね。

水野:僕も同感です。気の合わない人がその場を離れていく可能性もゼロではないが、それは自分では決められないですからね。

川原:強調したいのは、「だって、今は誰でもいつでも動ける時代じゃん」ということです。30年前であれば、人は、今いる場所に縛られて、さまざまな現実を受け入れるしかありませんでした。しかし現在は、世界中がインターネットでつながって、SNSも普及している。

 となると、居心地が悪い場所の中で縮こまっている理由がないんです。自分がおもしろいと思えること、やってみたいことを発信するだけで、賛同や応援の反応をくれる人に出会える確率はめちゃめちゃ高いですよね。

 だから、我慢せずに動いていいんじゃない? と僕は言いたいです。

質問者4:昔は自信がなかったという川原さんが、自分自身を信じられるようになったターニングポイントはいつでしたか?

川原:やはり実績がついてきてからです。2019年にNetflixで配信されたオリジナルドキュメンタリーの中で、僕たちの番組「Tidying Up with Marie Kondo」が世界一視聴された番組に選ばれて、エミー賞にも2部門ノミネートするという評価をいただけた。

 ただ、これも結果論でしかなくて、「自分の力を信じていいのかも」と少し自信がついたくらいです。今も常に揺れています。

 もともと僕は、一つのことを極めるのが苦手で典型的な器用貧乏タイプ。それがずっとコンプレックスで、何者にもなれない焦りがあったんですね。

 だけど麻理恵さんと出会って、そのコンプレックスが実は生かされるものだと気づけたんです。麻理恵さんは僕とは真逆で「片づけにおいては最強だけど、片づけしかできない」という一点集中型才能の持ち主です。そんな才能と、なんでも薄く広く器用にできるタイプの僕がタッグを組むことで、無敵になれた。

 そして世界に認められたと言える結果に到達したことで、僕の自分らしさの価値を信じられるようになりました。

質問者5:動き出そうとするとき、「これまで自分が積み上げてきたものが崩れるのが怖い」という不安から踏み出せない人は多いと思います。勇気を出すためのアドバイスをお願いします。

川原:先ほども話した通り、「ちょっとずつ割合を変えていく」というグラデーション戦略がいいと思います。ビビる気持ちはわかります。僕もそうでしたから。

 麻理恵さんの仕事を「彼氏枠」の副業として手伝うようになって、あっという間に本業並みに忙しくなって。前職の会社の社長に事情を説明したら、「それはあなたにしかできない仕事なのだから、遠慮せずに頑張りなさい」と理解を示してくださって。

 一足飛びではなく、段々と環境を変えてきたのは、僕の経験でもあるんです。

水野:僕も自己啓発系の本を書いている立場として、若い人たちからの相談を受けていたことがあって。その時に感じたのは、「○○をやりたいです」と言いながらも、動いていない人は少なくないですね。

 例えば、ミュージシャンを目指していると言いながら、ライブをやっていないとか。50人入る会場でたった2人しかいないお客さんの前で歌う経験とか、すぐにでもできるとは思うんですけれど。

 サッカー選手だって、大勢の観衆の前でPKを蹴るって、とんでもないプレッシャーなんで、ある意味罰ゲームだと思うんです。でも、遠くから見ていたら単に華やかなものに見えてしまう。一気に大きなアクションをする必要はなくて、少しずつ挑戦してみる。会社員を続けながらでも、できることはたくさんあります。

川原:世の中の流れとしても、副業を解禁する企業が増えていたり、オンラインサロンがあちこちで立ち上がっていたりしていて、行動するハードルはものすごく低くなっています。

 それでも行動しないということは、それほどのやる気はないのでは? と思ってしまうんです。ドライに聞こえるかもしれませんが、実際のところ、人生をどう生きるかは個人の自由ですし、自分で行動する人を、僕は全力で応援したいというスタンスです。

水野:行動してみて失敗した体験談とかも大好きです。失敗を人に笑ってもらうのって、すごくおいしいし、どんどん経験したほうがいいと思います。

質問者6:作曲活動をして3年ほど経ちます。まったく評価されない無名から始めて、最近は少しずつ仕事をいただけるようになり、毎日感謝をしながら過ごしています。今後もしっかりと地に足をつけて活動していくために、持つべき心構えを教えてください。

水野:持つべき心構えですか。僕は「執着心」だと思います。資本主義社会における成功を目指し、維持していくために何が必要なのかと、いろいろな人の事例を見ながら突き詰めて考えると、「絶対売れたい」と強く思い続ける執着心のある人間が結果的に勝っているように感じるんです。

 執着心があるから諦めないし、こだわりも持つことができる。その意味で、資本主義には悪い面もあるかもしれませんが、競争によって人の潜在能力を最大限に引き出すという良い面もあるんじゃないかと、僕は考えます。

 今は「多様性の時代」だと言われますが、人生の一時期に無茶苦茶、執着心を燃やして頑張りたい人もいる。それも多様性の一部として認め合うことが大事じゃないかと思っています。

川原:おもしろいなぁ。僕は逆に、執着を手放すことを日々心がけているんです。うまくいっているときも、うまくいかないときも、変わらない日常を保つこと。日々の生活の中の衣食住を心地よい状態で整えること。この意識を持って、「いつでも変わらない日常」をつくれると、周りの評価が急に良くなったり悪くなったりしたときにも、平常心でいられる。

水野:たしかに真逆でおもしろいですね。質問者は困っちゃいますよね(笑)

川原:最強は、中庸だと思うんです。自分がもともとどっちに振れやすいかを考えて、逆の方を意識する。例えば、あまり勝ちにこだわるタイプでないなら、水野さんがおっしゃったような執着心を意識してみる。結果、ちょうどいいバランスが取れるんじゃないでしょうか。