日本文化には利他性が浸透している
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現職。慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長兼務。博士(工学)。著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか』(ちくま文庫、2004年)、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書、2013年)、『幸福学×経営学』(内外出版社、2018年)、『幸せな職場の経営学』(小学館、2019年)ほか多数。
前野 心理学者のタル・ベン・シャハー先生が言っていましたが、幸せを目指す人は幸福度が低いという研究結果があります。パーパスを持ってやりがいを感じている人が幸せになるのですが、幸せそのものを追求すると幸せになれないということですね。禅問答で、悟りを目指すと悟れないのと同じです。
佐宗 日本では、石田梅岩の石門心学の伝統や、「三方よし」の近江商人など、商売を長く続けるために「世のため」を自然に考える伝統がありますよね。これは、村社会のようなクローズドコミュニティの中で商売をしていた日本の風土がつくった文化だと思うのですが、この利他性を現代社会に無理のない方法で実装する道はあると思うので、その点で僕は日本に大きな可能性があると考えています。
日本人はティール組織に適している?
前野 欧米人はボランティア活動をするけど日本人はしない、だから日本人は利他性が低いというデータがありますが、全然そんなことはありません。日本人は、他者にウイルスを移さないためにきちんとマスクをしています。
佐宗 ものすごく利他的ですよね。
前野 極めて利他的な行動を無意識にやっています。茶道や書道における美意識や感性が、マスク着用に現れていると言ったら言い過ぎでしょうか。無意識のうちに日本人に埋め込まれている利他性は、数値には出てきませんが、実は日本人はティール組織に適した、成人発達理論でいうところの発達度の高い人が多いのかもしれません。
佐宗 社会的に見ると、利他的に動く人の割合は欧米と比較すると確かに高いですよね。一方で、政府のコロナ対応を見ていても感じますが、その特質を生かした群れ方がつくれていないのではないかと思います。利他性というベースが既にあるならば、日本人なりの組織づくりの方法が見つけられれば道が開ける可能性があるのではないかという希望も感じています。
前野 まさにその通りですね。日本は古きよきものと新しいものを両方持っているので、うまくいけばこの混沌とした世界をリードできるだろうし、逆に最悪の場合は、意思決定できないまま世界に取り残される可能性もあると思います。