前回は、日本式経営が失敗しているとすれば、日本人の国民性に合致しない社会の仕組みが最大の問題だとお話ししました。今回は、日本が日本人としての良さを生かした企業経営を行うためには、今後どうしたらよいかについて、考えたいと思います。

厳しい社内競争のなかで生き残りに必死な韓国ビジネスマン
引退すべき人間をいつまでも囲っておく日本企業

 韓国ではサラリーマン人生を語る際に、次の3つの言葉がよく使われます。「38選」「45定」「56盗」です。

「38選」とは、韓国と北朝鮮の間にある「38度線」をもじった言葉で、「38歳になったら出世を目指して今の会社に残るか、今の会社での勝負を諦め、ほかの会社に転職するか、それとも起業するか選択せよ」という意味です。

 また、「45定」は、韓国語で「サオジョン」と読み、「西遊記」に出てくる沙悟浄(同じ発音になります)をもじった言葉です。「45歳になったらそろそろ定年だと思い、会社に居座って後輩たちに惨めな姿を見せることなく、すっきりと会社を辞めることを考えよ」という意味です。

 そして、「56盗」は、チョー・ヨンピルの「釜山(プサン)港へ帰れ」の歌詞にも出てくる五六島(オリュクト)をもじった言葉で、「56歳まで会社に居座るのは給料泥棒なので、そろそろ辞めて、転職するか、起業せよ」という意味です。ちなみに、五六島とは釜山湾の湾口にある島で、潮の干満によって島の数が5つに見えたり6つに見えたりすることに由来します。

 先日の韓国国会予算政策処のレポートによると、韓国労働者の平均勤続期間は5年でフランス(11.7年)やドイツ(11.2年)などに比べ半分以下、また、企業内での10年以上勤続者の比重は、日本が44.5%で、韓国が17.4%に過ぎないと記されています。このように韓国の会社組織では激しい競争があるため、同一組織の中で、出世競争から落ちこぼれになりそうだったら、会社から何かを言われる前に、潔く自ら次の道を探すと言うのが一般的なサラリーマンの運命と言えます

激しい競争に生き残り、出世をして皆が憧れるサラリーマンの星「取締役」になったとしても現実は相変わらず非情なものです。取締役のことを皮肉な言葉で「任期付き臨時職雇用」と呼びます。正規職雇用と臨時職雇用の違いは、簡単に解雇できるかできないかにあります。1年や2年の任期後、取締役会で再任されなければ、そのまま解雇ということになりますね。そのため、任期付臨時職員なのです。

 例えば、韓国の大手企業の取締役の在職年数は平均3年だそうです。取締役になるため命を懸け涙ながらに懸命に努力を重ねやっと夢の取締役になるもの、取締役は任期中、さらに自分の存在価値を認めてもらうため、さらに命を賭けて必死になって戦います。

 一方、日本の企業風土はいかがでしょう。最近はいくつかの大手企業が業績悪化に陥り、企業の存続をかけてリストラを断行している状況でもありますが、それ以外の会社の多くは、普通の社員は言うことなく、取締役も問題を起こさない限り、普通は定年まで勤められるのは勿論、定年間近になれば出向という名の下、子会社や関連の深い企業などに天下りで行きます。なんと安泰なことでしょう。ここに、現在の日本企業の大きな問題点が潜んでいると、私は感じます。

 そもそも、米国的な資本主義を掲げるのであれば、このような人事はやめるべきです。つまり、今の日本企業は、仕事ができる人を雇用不安に陥れる米国式経営の悪いところと、引退すべき人間をいつまでも囲っておく日本式経営の悪いところの両方を併せ持った経営をしているということなのです。これが、日本の企業が凋落した大きな原因だと私は思っています。