「競争優位」のよくある誤解2
ブランドも障壁にならない

 教授の快刀乱麻は、切れ味を増していきます。最も驚くのはブランドに関する主張です。ブランドもそう簡単には「利回り」を生み出しませんよと警鐘を鳴らすのです。

 世に一般的な経営理論の説くところとは逆に、競争優位性の種類はきわめて数が少なく、ビジネスの世界で実際に持続する競争優位性は稀にしかない。(『バリュー投資入門』p89)

 ……参入障壁がない場合、企業価値が長期的にはその資産価値に等しくなっていくというプロセス自体は十分に現実的なものである。そしてこのプロセスは企業や商品が強力なブランドイメージから恩恵を受けている状況にあってもあてはまるのである。(『バリュー投資入門』p86)

 ブランドは資産である。他の資産と同様に……それを築くときには初期投資がかかり、一度確立したイメージを維持するためにも継続的な支出を要する……ほとんどのブランド製品は、市場で確立した地位を築くことができない。(『競争戦略の謎を解く』pp196-197)

 メルセデス・ベンツの自動車ほど、競合との差別化に成功している製品は世界に二つとないだろう……ブランドは製品を差別化するためのもっとも基本的な手段であり、メルセデス・ベンツのスターマークは、世界の自動車市場でもっとも広く認知されている高品質の象徴であろう……しかし、こうした高品質のイメージが広く浸透しているにもかかわらず……そのブランド力を非常に高い利益率に結び付けられていない。実際のところ、彼らの業績はみんなが必死に避けようとしている汎用コモディティ事業を営む企業のそれと何ら変わらないのだ。(『競争戦略の謎を解く』p28)

 メルセデス・ベンツを取り上げた説明はなかなか強力です。ベンツが圧倒的に差別化されたブランドであることは、誰もが認める事実でしょう。でもそれほど差別化されていたとしても、「投下資本」に対する十分な「利回り」を生むこととは別物なのだ、という論理です。

 失敗したブランドへの投資は都合よく表面上から隠されてしまうため、ブランド全体の利益率を成功したブランドの利益のみでとらえてしまうことは往々にしてある。こうした利益の過大評価が、ブランドの創造が競争優位の源泉の一つだという根拠のない結論につながってしまう。(『競争戦略の謎を解く』pp197-198)

 理論的にもまた実務的にも、「商品の差別化」および「強力なブランド」は、「収益性のあるフランチャイズ」とは別物なのである。(『バリュー投資入門』pp87-88)

 長期投資家は、何かの経営施策を打つためには、何かしらの「投下資本」が常にかかるという点を理解しています。

(本原稿は『経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営』の内容を抜粋・編集したものです)