「わからない」が愛しい

岡田:2人の本に共通しているといえば、モロッコですね。

高橋:そうそう、モロッコ!

旅は、わからないものを受け容れるプロセスだった。『旅を栖とす』高橋久美子・税込1650円(KADOKAWA)
旅に出たい、旅をしたい、旅人になりたい。バックパックを背負って詩人が飛び込んだ世界の国々。タイ、カンボジア、ベトナム、台湾、フランス、北欧、スペイン、モロッコ、奄美大島、東北、長野、東京……旅に出たくて仕方ないすべての読者に贈る15編。

岡田:僕が初めて一人旅をしたのがモロッコだったんです。バックパッカーに憧れて重い荷物を背負って行って、そしたらすぐ丸ごと盗まれて。

高橋:バックパッカーじゃなくなったんですよね。

岡田:ただの手ぶらの人になりました。そこから紆余曲折を経て、現地人の家で生活することになって。それで「旅っておもしろい!」と思ったんですよ。思い描いていたことが、なにひとつ予定通りにいかないから。

高橋:本当にそう。思い通りにいかなかったり、道に迷ってからが旅の本番。私は道に迷いたいから、あえて旅行中はスマホを持たないようにしています。

岡田:特にモロッコはそういうことが多く起こりました。

高橋:偶然かもしれませんけど、私もモロッコでiPadを持っていたら、子どもが寄ってきて「撮影はダメだ!」って言われて。何人かにつかみかかられて、iPadを奪われました。

岡田:それは普通に怖い。

高橋:結局最後には助けてもらえたんですけど。でもショックだったのが、後ろの方で子どもたちのお母さんがじっとその様子を見てたんですよ。

岡田:それで生計を立てているのかも、と考えると複雑な気持ちになります。

高橋:岡田さんの『0メートルの旅』で、「現地に溶け込んだと思ったら、何もわかっていなかったと気づかされることもしょっちゅうだ」とが書いてありましたよね。まさにそうだと思います。わかった、とわからない、の繰り返し。

岡田:最初はそれが受け入れられなかったんですけど、じきにそれこそが旅の醍醐味だ、と思うようになりました。わからないことがこんなにあるんだ、というのを知ることが快感になってきた。

高橋:私は、旅で、以前より人間を受け容れられるようになりました。海外で話しかけてくる現地の人って、悪巧みしてるパターンも多いんですけど、100%の悪人かと言われるとそうではない。めんどくさい部分も含めて愛すべき人間なんだなあって、そんなふうに思えるようになりました。

岡田:旅は、受け容れるプロセスそのものなのかもしれませんね。

道玄坂とスクランブル交差点の音は違う

岡田:旅に取り憑かれた僕たちが、今、遠くへ行けない時代になってしまいましたよね。最近、どんな旅をしてますか?

高橋:私、旅先で録音するのが趣味なんです。

岡田:録音?