なぜ、いまこそ
「エクセル経営」か

 ワークマンのデータ経営の真髄はエクセルの活用にある。

 だから私は「エクセル経営」と呼ぶ。

 普通の会社でエクセルというと、おもに経営計画などで予算と売上の集計に使用され、多少バカにされている印象があるかもしれない。

 しかし、じつは奥の深い「草の根分析ツール」である。

 ワークマンの理想は、優秀なリーダーに社員がついていくという姿ではない。

 普通の経営者を普通の社員が支えながら、市場で圧倒的に勝ち続けることだ。

 カリスマ経営者による経営はたしかに素晴らしいが持続性に欠ける。その人がいなくなった途端に株価が急落する可能性もある。

 また、優秀なトップでも、1期目はよくても2期目はダメということもある。トップが劣化すると組織全体が劣化する。だから万一トップが劣化しても、社員は劣化せずに意見を出し、勝ち続けていくのがいい会社だ。

 エクセルでデータを分析し、発見し、改革を考える。

 単にエクセルのデータをつき合わせるだけでなく、エクセルを使って自由に議論することで、社内の知恵を集められる。普通の人の知恵を集めてできる「エクセル経営」こそワークマンの目指すものだ。

 非凡な人はいらない。頑張らなくてもいい。

土屋哲雄(つちや・てつお)
株式会社ワークマン専務取締役
1952年生まれ。東京大学経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て、三井物産デジタル社長に就任。企業内ベンチャーとして電子機器製品を開発し大ヒット。本社経営企画室次長、エレクトロニクス製品開発部長、上海広電三井物貿有限公司総経理、三井情報取締役など30年以上の商社勤務を経て2012年、ワークマンに入社。プロ顧客をターゲットとする作業服専門店に「エクセル経営」を持ち込んで社内改革。一般客向けに企画したアウトドアウェア新業態店「ワークマンプラス(WORKMAN Plus)」が大ヒットし、「マーケター・オブ・ザ・イヤー2019」大賞、会社として「2019年度ポーター賞」を受賞。2012年、ワークマン常務取締役。2019年6月、専務取締役経営企画部・開発本部・情報システム部・ロジスティクス部担当(現任)に就任。「ダイヤモンド経営塾」第八期講師。これまで明かされてこなかった「しない経営」と「エクセル経営」の両輪によりブルーオーシャン市場を頑張らずに切り拓く秘密を本書で初めて公開。本書が初の著書。