それまでなかった
ヤマトの集荷・配送の仕組み

 しかし、小倉さんというIdiosyncraticな経営者は、そんな常識的観察から、違う思考を紡いでいきます。

 人間が生活しその必要から生ずる輸送の需要は、個々人から見れば偶発的でも、マスとして眺めれば、一定の量の荷物が一定の方向に向かって流れているのではないか。個々の需要に着目しているうちは対応の仕方がわからないが、マスの流れに着目すれば、対応の仕方があるのではないか……。

 商業貨物の輸送は、たとえてみれば、一升枡のような大きな枡をもって工場に行き、豆を枡に一杯に盛り、枡ごと運ぶようなものである。一方、個人の宅配の荷物の輸送はというと、一面にぶちまけてある豆を、一粒一粒拾うことから始まる。拾わない限り、仕事は始まらない……。

 どうすればそんなことができるだろう……そんな発想から私が思いついたのが、取次店の設置である。(pp.78-79)

 小倉さんはそんなふうに考え、酒屋さんやお米屋さんといった主婦になじみのある商店を、一つひとつ取次店にしていきました。この取次店システムによって、バラバラに発生する荷物を集めるほうは仕組みができたのですが、今度は集めた荷物をどうやって輸送するか、どの程度の配送ネットワークの構築が必要なのかという難題に直面します。

 問題は、私が思い描いたような全国的な輸送のネットワークをヤマト運輸がつくることができるかどうか、であった……ベースは各都道府県に一ヵ所としてセンターはいったいいくつ作ったらよいのだろうか、である。(p.83)

 そこで小倉さんが調べたのは、市民生活に関係の深い施設の数です。集配郵便局は5000、公立中学校は1万1250、警察署は1200と数えていき、地域の治安を維持している警察署が1200で済むのなら、ヤマト運輸の宅配センターもそのぐらいあれば間に合うと考えたのです。