インターネットの「知の巨人」、読書猿さん。その圧倒的な知識、教養、ユニークな語り口はネットで評判となり、多くのファンを獲得。新刊の『独学大全──絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』には東京大学教授の柳川範之氏が「著者の知識が圧倒的」、独立研究者の山口周氏も「この本、とても面白いです」と推薦文を寄せるなど、早くも話題になっています。
この連載では、本書の内容を元にしながら「勉強が続かない」「やる気が出ない」「目標の立て方がわからない」「受験に受かりたい」「英語を学び直したい」……などなど、「具体的な悩み」に著者が回答します。今日から役立ち、一生使える方法を紹介していきます。
※質問は、著者の「マシュマロ」宛てにいただいたものを元に、加筆・修正しています。読書猿さんのマシュマロはこちら
(こちらは2020年11月の記事を再掲載したものです)
[質問]
「世界中を旅する」という夢を達成するための障害と、どう向き合うか
読書猿さん、こんにちは。今日は、自分が今抱えている悩みを解決すべく、知識人である読書猿さんの力をお借りしたいという思いで、質問させていただきます。拙い文章ですが、よろしくお願いいたします。
私は今、大学生1年生で、高校生の頃から大学生になったら世界中を旅したいと考えておりました。その気持ちは今も変わってません。しかし、その夢を実現するには、いくつかの障害を抱えており、それが悩みの原因となっています。
まず私は、入学当時から「英語強化プログラム」というような組織に参加しており、毎日英語の授業があります。そのプログラムは2年間で修了するのですが、修了時にはTOEFL IBT100、TOEIC920を超えることや留学を目標としているため、毎日かなりの量の課題が出ます。そのため、英語強化プログラムは一年で辞め、二年はバイトなどに集中して旅のための資金を貯めたと考えています。しかし私は、英語強化プログラムを辞めることは正しいことなのか? 悩んでしまいます。というのも、英語強化プログラムは、大学の中でも優秀な生徒が集まり、お互いに切磋琢磨し合っていて、かなり環境が整っています(大学から、多くのお金がそのプログラムに注がれています)。実際に英語強化プログラムの卒業生の方々が、有名企業就職や有名大学院に進学しておられるので、二年間やり抜くことで、自分の能力が上がることは、確実と考えています。ですから、それを手放してまで、旅をする意味があるのだろうかと考えてしまいます。
また、親も英語強化プログラムに残ることを強く希望していますし、英語強化プログラムの先生方も、おそらく私が辞めると告白すると強く止めてくると思います(友人が辞めた時は、そうだったと聞きました)。
私の悩みを簡単に申し上げますと、やりたいことを貫くか、やったら良いことを続けるか、どちらにすべきだろうかといった感じです。
私の正直な気持ちとしては、旅に出たいです。毎日やりたくない課題に追われており、もう一年続けることに抵抗を感じます。しかし、その選択はただの逃げなんじゃないかと考えたりします。ですが、やりたいことをやって、日々生きているという実感を持ちながら、明日死んでも後悔しない日々を作りたいです。
長文失礼しました。読書猿さんの回答をお待ちしております。
そもそもですが、何のための英語強化プログラムなのですか?
[読書猿の解答]
私はてっきり「世界中を旅する」という夢のために「英語強化プログラム」に参加し日夜努力されているのだと思ったのですが、違うのですか?
あなたがそうして着々と夢に向かっている人、言い換えれば、この場にいながら既に旅を始めている人であるなら、心の底から応援するでしょう。
反対に、目下の努力を夢と結びつけて構想することを怠り、自分の認知資源を注力し時間をかけなければ手に入らないものより、いくらかのお金と時間があれば誰でも手に入るものを優先したいとおっしゃるのであれば、謹んで次の言葉を進呈しましょう。名言しかないマンガ『ちはやふる』から駒野勉君の言葉です。
「やりたいことを思いっきりやるためには、やりたくないことも思いっきりやんなきゃいけないんだ」
質問をお読みして、致命的だと思うのは、あなた自身が重ねてきた努力を、まるで誰かにやらされているものであるかのように扱っているところです。大変な日々の中で「あれ……何やってるんだ、俺」と思う気持ちは痛いほどわかります。親や先生は、今やっていることの「世間的な価値」は教えてくれますが、あなたが「なぜこれをするのか」の答えは教えてくれません。努力の意味は、今の行動を自分の志に繰り返し結びつけることを通じて、自分でメンテナンスし続けなければいけないのです。
自分の行動を自分自身で意義づけられない人は、誰かの指図なしには一歩も進めない人になります。
自分を変えるための努力を重ねることができず、たとえ地球のどこに身を置こうとも、すぐに手に入るものを取っ替え引っ替えし続け、「ここではないどこか」に脱出することを夢想しながら、「今ここ」に永遠につなぎ留められるでしょう。