「残業ゼロ」は新卒採用の最強の武器

 また、残業が減るに従い、社員の離職率も低くなった。

 わが社は、社員210名(総従業員は約850名)中、「課長職以上」が70人を超えています。70人以上の管理職の中で、過去7年以内に辞めた人は、八木澤学ひとりだけです

 でも、辞めた八木澤課長も戻ってきているので、実質ゼロです。

 新卒は、2014年度に15人採用して、1年未満で辞めた社員はひとりだけです(会社に不満があったわけではなく、病気による退職)。

 2015年度に至っては、25人採用して、ひとりも辞めていません

 採用を統括している小嶺淳本部長は「今の武蔵野は、自分が入社した当初と同じ会社だとは思えない」と感じています。

「今の労働環境は、私が入社した14年前と比べて、天と地ほど違います。私は現在、新卒社員の採用を担当していますが、今の若い人たちは『給料よりも休み』を優先する傾向にあります。こうした若者に関心を持ってもらうためには、『休日出勤と残業が少ない会社』にしなければいけません。

 残業への取り組みを本格化してから、武蔵野に対する学生の関心が高くなったのは明らかです。『残業をなくす』ことは、新卒を採用する企業にとって『最強の武器』だと実感しています」(小嶺)

 以前は、「週休1日、7~翌1時勤務」が当たり前だった「ブラック事業部」は、現在、「ホワイト事業部」へと変わり、前述した小林と久木野が揃って、「信じられない」と目を見張るほど、労働環境が改善されています。

 そして、「逃亡」する以外に辞める方法がなかった武蔵野は、現在、社員が辞めない会社へと変わりました。

たった2年強で1億5000万円削減!
過去最高益を更新しながら人件費大幅減

 わが社は、残業改革前と比較すると、社員換算で「1億円」、パート・アルバイトも含めると「1億5000万円」の人件費削減に成功しました。

 通常、労働時間が短くなれば、それだけ売上や利益も減ると思われがちですが、わが社は違います。

 左の図のように、2014年3月の月間平均残業時間は57時間18分でしたが、2016年7月は24時間41分と56.9%ダウンしました。にもかかわらず、この間、売上アップ率は123.8%となっています。

 残業を減らせば減らすほど業務改善が進んで、過去最高売上、過去最高益を更新。経常利益は5億円になりました(販売促進費を6億円使っているので、実質的な経常利益は11億円)。

 つまり過去最高売上・最高益を更新しながら、大幅な人件費減を達成したわけです。この間、解雇などのリストラは一切していません。

 同時に、従業員の可処分所得をできるだけ下げないよう、残業減の一定基準を満たしたパートには賞与を倍にしたり、社員のベースアップ(ベアではない)と賞与の増加を図った結果、離職率も大幅に下がった。

 結果、定時退社が増え、社員同士が一緒に飲みに行く時間ができてコミュニケーションがよくなり、健康になって心に余裕も生まれ、家族との時間ができる環境になった。

 こんなことは、私が社長になって28年間、まったくなかったことです。

 正直に言うと、残業改革を始めた2年前は、こんなにうまくいくとは思わなかった。

 でも、「絶対やる!」と宣言してやってみたら、社員同士がうまく競い合ってすぐ結果が出ました。そして、武蔵野でうまくいった事例を業種の違う企業にも横展開したら、うまくいった事例が次々出てきたのです(本書では、残業への取り組みを進めているさまざまな企業を紹介しています)。