分散型事業の戦略
──日常的にスクラップアンドビルド
規模型事業における実際の戦略例をお話ししましたが、今度は分散型事業の競争の構図と事業運営の鉄則を考えてみましょう。この事業では規模の不経済が効いてしまうので、規模を大きくしてもあまり良いことがありません。規模を大きくしても、利益率はかえって下がっていってしまうのです。
この事業では敢然とリスクを取って規模拡大を狙うのではなく、お客さんや商品、あるいは地域といった視点でコストの隅々まで目を配り、日常的なスクラップアンドビルドを行うことが求められます。
儲かっていた商品が儲からなくなってきた、固有コストが重くなってきたというような状況になれば、その商品はさっさとやめ、次の商材に乗り換えるという機敏で細やかな動きを行うことで、利益「率」を維持・向上することが鉄則なのです。
特化型事業の戦略
──共有コスト比率が高い領域に絞って規模拡大
特化型事業も、領域を絞れば規模型事業と同じ競争の構図になります。領域ごとに規模の拡大競争が起き、少数の企業が争う構図となるのです。戦略としては、その領域に特化し、そこだけに共有コストをかけ、その領域だけでシェアを追求する。顧客基盤を構築することで、かけた共有コストを薄め、利益率の確保を狙います。
特化型事業のコスト構造にあるにもかかわらず、「額」だけを追いかけ、多くの事業分野に進出している企業をよく見かけますが、そんな戦略では業界平均並みの「率」を得ることはできません(いわゆるコングロマリットと呼ばれる企業は、多くの場合、このような「額の経営」になっています)。特化型事業で領域を増やす誘惑に屈してしまうのは自殺行為です。くれぐれも気をつけていただきたいと思います。
手詰型事業の戦略
──リストラ・業界再編・協調戦略
手詰型事業は、元々は規模型事業であったものが、業界全体が供給過多になり、誰も儲からなくなった事業です。打ち手としては、過剰人員の削減、設備のスリム化、生産量の削減あたりが常套手段です。業界再編をしていくことも、一つの選択肢となります。
企業間で生産量を調整する/販売エリアを棲み分けるなどの協調戦略をとる方法もあります。これは下手をするとカルテルと見なされる可能性もありますし、競合同士が協力しなければならないため難易度は高いのですが、この手の産業ではトライする価値があると思います(その際には、経済学・ゲーム理論で言う「協調ゲーム」が参考になると思いますので、ご興味のある方はぜひ研究なさってみてください)。
(本原稿は『経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営』 の内容を抜粋・編集したものです)