あえて反転的に「問題をもっと悪くする」方法を掘り下げることで
問題発生のメカニズムを解明する
──「自分が問題の一部であると気づく」はとても大事なポイントだと感じますが、それに気づくのは、なかなか難しい面もあると思います。
どうしたら、そこに気づけるようになるのでしょう?
宇田川:問題の解決を一度脇に置いてみることが大事だと思います。
通常私たちは、問題があるとそれを解決することをまず考えます。それ自体は必要な場面も多いでしょう。
しかし、それではどうもモヤモヤとしたものが残ることもあります。
『組織が変わる』では、「2 on 2」という新しい対話の方法を考えてみました。その中で「反転の問いかけ」というのがあるのですが、このアプローチは一度、問題解決をやめてみるということでもあります。
「反転の問いかけ」は私のオリジナルではなく、『べてるの家の「当事者研究」』(浦河べてるの家著、医学書院、2005年)に紹介されている内容からヒントを得たものです。
「べてるの家」は北海道にある、おもに精神障害を抱えた人たちが活動しているコミュニティです。
「当事者研究」という、精神障害を抱えている当事者自身が自分の困りごとについて皆と一緒に考えてみる場があります。
様々な当事者研究がありますが、その一つに「食べ吐きの研究」というのがありました。
これは摂食障害で、過食嘔吐を繰り返してしまう人の当事者研究で、普通はこういう問題に直面すると「どうしたら、過食嘔吐が止まるか」を考えるものですよね。
当然、周りもどうしたら治せるかを必死で考えます。心配だからです。
でも、当事者研究で「反転的な問い」を立てているものがありました。
「どういう過食嘔吐が成功なのか?」
「どうすれば、もっと過食嘔吐になれるのか」
を当事者同士で一緒になって探っていきます。
そこから見えてきたのは、過食嘔吐自体が問題というよりも、ご自身の人生における苦しさを伝えたくて、必死に過食嘔吐という方法で、なんとか周りにSOSを発していたということでした。
「食べ吐き」という問題は、その人が困っている問題をなんとか自分で解決しようとして起きていたと見えてきたのです。