生命の生き残りと永続性を支える

 クリックとワトソンが示したDNA二重らせんの真の美しさは、優雅にらせんを描く構造の優美さにあるんじゃない。この構造が、生命の生き残りと永続性を支えるために遺伝子が果たす、二つの鍵を説明している点にあるんだ。

 まず、細胞や生物そのものが成長し、持続し、繁殖するために必要な情報をDNAが「暗号化」する必要がある。次に、新しい細胞や新しい生命体が、完全に揃った遺伝命令を受け継げるよう、DNAは、自らを精密に「複製」しなくてはならない。

 ねじれた梯子のようなDNAのらせん構造は、この二つの決定的な機能を説明している。まず、DNAがどうやって情報を所持しているかを見てみよう。梯子の段はそれぞれ、ヌクレオチド塩基と呼ばれる化学分子が一対ずつ結合してできている。

 塩基はたった四種類しかない。アデニン(Adenine)、チミン(Thymine)、グアニン(Guanine)、シトシン(Cytosine)の四つだ。それぞれ頭文字を取って、A、T、G、Cと略記される。

 DNAの梯子の二本の鎖にあらわれる、この四種の塩基の順序が、情報を含んだ暗号としての機能を果たす。ちょうど今、あなたが読んでいるこの文章で、文を作っている文字列の順序によって意味が伝わるのと一緒だ。

 それぞれの遺伝子は、細胞へのメッセージを含んだ、決まった長さのDNA暗号でできている。そのメッセージは、たとえば、ある人物の瞳の色を決定する色素を作り出したり、エンドウ豆の花の細胞を紫色にしたり、肺炎を引き起こす細菌の毒性をもっと強くするための命令かもしれない。

 細胞は、この遺伝子の暗号を「読むこと」によってDNAからメッセージを手に入れ、その情報を目的通りに機能させる。

 次に、ある世代の細胞や生命体から次の世代へと、遺伝子のすべての情報がきちんと伝わるように、DNAの正確なコピーを作る必要がある。梯子の段を作っている二つのヌクレオチド塩基の形と化学的な性質によって、塩基はたった一つの方法で正確に一対になるようになっている。

 なんと、塩基AはTとだけ、そしてGはCとだけしか手をつなぐことができないんだ。つまり、DNAの一方の鎖の塩基の順序が分かれば、もう一方の鎖のヌクレオチド塩基の順序は自動的に決まる。たとえば、片方がACGT……なら、もう片方はTGCA……といった具合に。

 だから、二重らせんをバラバラにして二本の鎖に分けたとき、それぞれの鎖は、別れた相手の複製を作り直すための完璧な「鋳型」になる。

 クリックとワトソンは、DNAの構造を知るやいなや、細胞はまさにこの方法で、染色体や遺伝子を形作るDNAを複製しているのだと気づいた。

(本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)

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