わざと「小さなYES」は集めない
だけど、これをされると鬱陶しいんですよね。
たしかに、いきなり営業を始めるよりも、当たり障りのない会話をしながら、「小さなYES」をもらっていくことには、一定の効果はあるとは思いますが、本当の意味でお客様との関係性をつくるうえでは、ほとんど本質的な意味はないのではないでしょうか?
そもそも、僕も、いろんな営業を受けてきたなかで、「小さなYES」を取ろうとする営業マンともたくさん接してきましたが、細かいことをいろいろ質問されて、いちいち「YES」と応えるのは、正直に言ってすごく面倒臭いんです。
しかも、「小さなYES」を取ることが目的ですから、質問が浅いことが多いし、なんとか商品の購入に結びつけようとする意図が見え隠れすることが多い。よっぽど熟達した営業マンは違うのかもしれませんが、普通の営業マンが「小さなYES」を取ろうとすると、かえってお客様の不信を買う結果を招くことが多いと思います。
だから、僕は、「小さなYESをもらう」という手法はすぐに捨てました。
「自分がされてイヤなことはしない」ということですが、もっとはっきり言ってしまえば、小手先のテクニックで信頼を勝ち取ることができるほど、お客様は甘くはないと思うからです。むしろ、そんな小手先のテクニックでお客様の心理を操作しようなどというのは失礼ですらあると思います。
そして、こう自問自答しました。
自分なら、どういう営業マンに好感をもって、信頼感をもつだろうか? そう考えれば、答えは明らかでした。ちゃんと自分の言葉で、「僕はこういう人間です」「こういう思いで仕事をしています」と語れる営業マンです。その言葉に真実味を感じられれば、自然と話を聞いてみようという気持ちになるのです。
そこで、僕は、正攻法を取ることにしました。
まず、正直に「自己開示」をするように心がけたのです。
お客様に心を開いて話していただくためには、その前提として、僕が心を開いて、「自分がどういう人間なのか?」「なぜ、保険の営業をやっているのか?」といった自分のことを堂々と語る必要があると思うのです。
そもそも、当時、僕がお目にかかっていたお客様のほとんどは「保険に入りたい」とは思っていませんから、いきなり「保険」の話をしようとしても身を入れて聞いてくれることはありません。お客様とコミュニケーションを深めようとすれば、僕という人間に対して、「親近感」や「共感」「信頼感」など、なんらかの好意的な「想い」をもっていただくしかないのです。
「なぜ、営業マンになったのか?」を
自分の言葉で語れるようにする
特に、「なぜ、保険の営業をやっているのか?」についてお伝えするのは重要です。
なぜなら、お客様は「保険の営業」を受けるために、その場にいらしているからです。営業マンである僕が、どんな「想い」をもって「保険の営業」という仕事をしているのかを知ることは、お客様が僕を信頼するかどうかを判断するうえで欠かせないことなのです。
ただし、お客様の「目」は厳しいです。
僕の話に、「嘘」や「でっちあげ」があれば、それを即座に見抜かれます。だから、僕は、何度も自問自答しながら、「なぜ、自分は保険の営業をやっているのか?」を深く深く掘り下げて、心からの「自分の言葉」として話せるようにしていました。
僕が、TBSを退職して、保険の営業マンを志したのは、TBSの“看板”で生きている自分を変えるためであり、京大アメフト部時代に失った「自信」を取り戻すためでした(詳しくは連載第6回参照)。だから、「本気」で営業に取り組んで、「日本一の営業会社で日本一」の実績を打ち立てたいと考えたわけです。
これは、率直に言って、お客様には関係のない話です。もっと言えば、“For me”の話です。だけど、これは僕の本心です。だから、嘘偽りなく、その動機をお伝えしました。なかには、この僕の動機に違和感を感じたお客様もいらっしゃったとは思いますが、実際には、多くの方が「共感」してくださったように思います。
そして、頑張ってる営業マンを応援したいと思ってくださる、ありがたいお客様もたくさんいらっしゃいました。特に頑張っている人ほど、頑張っている人を応援したくなるものなのです。