原始から人間が抱いていた
2つの問い

――哲学と宗教は、同じ問題を違うアプローチで解決しようとしている。だから、セットとみなしたほうがいいわけですね。

出口:僕はそう考えています。
人間が地球のチャンピオンになれたのは、ほかの動物を遥かにしのぐ「考える能力」を発揮したからです。考えて、考えて、考え抜いて、人間は文明を築き、文化を生み出し、生活を豊かにしてきました。
なかでも、卓抜した頭脳を持った一部の人たちが、世界や、人生や、死後の世界に関する概念をつくり出して、人生の生きる寄(よ)す処(が)としてきました。それが哲学や宗教になっていったのです。
有史以来人間は、根源的な2つの問いについて考え続けてきました。

「世界はどうしてできたのか、また世界は何でできているのか?」
「人間はどこからきてどこへ行くのか、何のために生きているのか?」

この問いに対して答えてきたのが宗教であり、哲学であり、自然科学です。

令和の時代に、
古典的な思想は役に立つのか?

――何百年、何千年も前の哲学者や宗教家の言ったことが、現在も通用するのでしょうか? この令和の時代に、哲学や宗教は力になってくれるのでしょうか?

出口:哲学や宗教の歴史的な文献、いわゆる「古典」は、市場の洗礼に耐えながら、生き残ってきたものです。そこには、時代を超えた本質が詰め込まれています。もし、あきらかに間違っていたり、普遍性がなければ、時間の経過とともに淘汰されてしまったはずです。

また、僕が知る限り、約1万2000年前のドメスティケーションの時代(狩猟・採集社会から定住農耕・牧畜社会への転換)から人間の脳は進化していません。
いつの時代であれ、人間の喜怒哀楽も、悩みも、煩悩も、不安も変わらないのですから、世界中のどんな哲学や宗教を学んでも、決して無駄にはならないと思います。
苦しんでいる世界中の人々を丸ごと救おうとした偉大な先達たちの思想や事績は、必ず役に立つはずです。

考える力を身につけたければ、最初は誰かの真似をして、考える型や発想のパターンを学ぶ必要があります。
だとしたら、ビジネス書を書いた人よりもプラトンやアリストテレスのような超一流の脳みそに鍛えてもらったほうがいいのではないでしょうか。

 過去の僕の『哲学と宗教全史』全連載は「連載バックナンバー」にありますので、ぜひご覧いただき、楽しんでいただけたらと思います。

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